その19 ◆ステップ10 彗星への旅 

◆ステップ10 彗星への旅


 次が、ついに、最後のステップ。
 先ほどまでの悲しみのオーラをふりきるように、宇宙船は、ぐんぐん加速していきます。
 宇宙を光速で駆け抜け―――
 やがて、星たちの残像で流線だったスクリーンが動きを止め、パチッと焦点をむすびました。
 目の前に大きく見えているのは、ながく尾をひいた、まるで鳥の羽のように美しい彗星です。
「うわあっ、キレイ!!」
 たくさんの星たちを眺め、その美しさに慣れっこになりはじめていたテラダ一家も、歓声をあげて見入ります。

 宇宙船のマザーヴォイスが、語り始めました。
《さあ、ついに旅の終わりです。最後は、この上ないレベルで魂のアンチエイジングをしてくれる、静かで、そしてパワフルなレッスンです》


☆ステップ 10.devote (何かのために)

《この気持ちをささげられる何かを持っている人は、しあわせです。
 自分をなげうって、自分を犠牲にしてでも、
 守りたい誰か、大切にしたい何かを持っている人は。

 誰かのために(家族・恋人)
 何かのために(仕事・事業、研究…………)

 その対象はいろいろでしょうけれど
 あなたが、ベストを尽くし、身を捧げたい対象。
 それに出会い、そのために生きることほど、すばらしいものはありません。

 見返りも求めず、気づかれなくても気にせず、
 心に愛をいだき、そのために時間と労力をささげ、
 何かをなしとげようというパワーは
 とても尊く、強く、ありがたいものです。

 しかも、このアンチエイジングパワーは、無尽蔵です。
 ほかのパワーのように、長く、そればかり使っていると
 魂のはたらきがかたよってにぶくなる、ということがありません。
 このパワーには、1から9までのすべての要素が含まれているからです。

 気をつけなければいけないのは、
「してあげている」おごりや、相手の気持ちも考えずに「してあげたい」支配欲、
「これくらいしてあげているのだから、見返りがあって当然だ」という利益欲などです。

 (10.devote/何かのために)は、卑屈な奉仕でもなく、
 人を支配したりされたりする権力とも関係ありません。
 ただ、誰かの、何かのためにできるだけのことをしたいという気持ちです。

 そして、この無私の「誰か / 何かのために」という方向で魂をつかっているうちに、
 しだいに「何かのおかげで~」という気持ちにシフトします。
 誰か、もしくは何かのために魂を捧げたいと思えるのは、
 その何かのおかげで、自分もパワーをもらっているからです。

 こういう気持ちを持てているのは、感じているのは、
 その愛の対象のおかげ。
 そして、自分が生きて、こんな思いでいられるのは、たくさんの誰かのおかげ。
 口にしている食べ物をつくっている誰か、運んでくれた誰かのおかげ、
 身の回りの便利な道具が使えるのも、すべて全宇宙の偶然のおかげで
 今のあなたを成り立たせているのです。

 食べ物は、命。
 それをいただいているありがたさに気づきます。
 お水は、奇跡。
 地球にそれが存在していることは、魔法のよう。
 気の遠くなるような、宇宙の起源や地球の生命の誕生から
 種の進化と滅亡をくぐりぬけたいきものたちの命をいただいていて
 美味しい、と今、あなたが感じられるのは、
 目に見えない海の生き物だった頃から、祖先が生き抜いて
 いのちを自分にバトンタッチしてくれたおかげ。
 そして、今、たのしく談笑している相手も、同じような奇跡を経て
 自分と巡り合い、この場にいてくれるのです。
 
 ふだんは、なかなかそんな奇跡のありがたみを実感できませんが、
 一度でも目の前のなにか、たとえば目の前の食べ物ひとつでもじっくりと眺めて
 それと自分が出会い、いただくことができるまでの
 宇宙の起源からの出会いのプロセスを感じると、
 気絶しそうなほどの神秘と幸運にうちのめされます。
 それは、なにかすばらしい芸術品や景色、音楽、ファッション、
 娯楽などでも同じです。

 時間をかけて、一度でも瞑想して、この奇跡を体感してみましょう。
 この、おかげパワーの瞑想にははじめは時間がかかりますが、
 得られる感動ははかりしれません。
 そして、次からは、一度行った場所の記憶を瞬時に呼び戻せるように
 いつでも、この「おかげ」の気持ちを呼び戻せるようになります。

 毎回毎回、何かとの出会いに感動しながら生活するのは
 時間がかかりすぎるし、無理ですが、
 疲れている時、癒されたいとき、なにかを愛したいとき、
 ふっと、この「出会えている奇跡」を思い出せると
 魂は、たちまち滞りを解消し、元気によみがえり、
 「おかげパワー」でいきいきと輝きだすのです。

 この「おかげ」の気持ちを《ほんとうに》手に入れられたら、しめたもの。
 「devote」のアンチエイジングパワーは
 「おかげパワー」で強力に充電されて、
 与えても与えても尽きることのない、愛情の永久機関になるのです。

 そうすれば、あなたは日々気づきや感動や行動に満ちて、
 生まれた時から死に向かって下っていくエスカレーターに対して
 三段跳びで逆走できるパワーを手に入れたも同然です。

 あなたは絶え間ない魂のアンチエイジングパワーを手に入れ、
 輝く愛と希望の国の住人となり、
 生きている充足感とトキメキは、あなたから離れることはないでしょう』

 マザーヴォイスが語っている間、宇宙船の上部に浮いているピカリィの身体が、ほこらしげにぐんぐんひろがっていきました。
 クリオネのような十字型の各片がハート形に伸びていき、立体的なメビウスのような、根元でつながったよつ葉のクローバーのような姿です。
 それぞれのハート形は輝きながらゆっくりとうねり、動力のついたオブジェのようになりました。
 そしてそこからほんのり、虹色にかがやく光がオーロラのようにほとばしります。
 きらきらした音楽はまだ続いていて、あたりには霧のように光の粒が舞っています。
「うわぁ、きれい!!」
「ほんと、すごいや!」
 マコとケンタがピカリィのそばに近寄り、はしゃぎます。
 その姿をながめながら、パパとママはどちらともなくほほ笑みあいました。
「あいつらを見ているだけで、こんなにうれしくてあったかい気持ちになるんだものなあ。たしかに、これは、おかげってヤツだな」
「そうねえ。ほんとにほんとに、ありがたいわ。いつもは、イライラ不満ばっかりだけど…………こうして見ていると、あのコたち、ほんと、いてくれているだけでいいわ。私、あのコたちのためなら、余裕で死ねる」
 パパは、ママの手をぎゅっと握りました。
「でも、あのコたちには、こんな気持ち、重荷に感じてほしくないわ。自分らしく羽ばたいてほしいし、輝いてほしい。やだ私ほんと、むちゃくちゃ感動しているみたい。今なら、今までのレッスンのぜんぶが理解できそうって気がしてきたわ。なんでだろう。急にほんと、いろいろほぐれてきたみたい…………」
「でも、それだけに、逆にこわくもなるな」
 ぼそりとパパが言いました。
「この幸せがもぎとられたら。なにかの理由で家族がばらばらになったりしたら、オレはどうなっちゃうか、自信がないよ。あいつらになにかものすごい不幸が襲ったりしたら、正気でいられる自信がない」
「そうね。それは、私も同じだわ」
 二人に見守られながら、マコとケンタはふわふわとピカリィの周りをただよっています。
「ねえ、これが最後なんだよね? やっぱり、ちょっと難しかったよ。なにかのためとか誰かのためにとか、ボク、しんけんに思ったことないや」
「私もよ。それになにかのおかげって、ココロから思えるのってかなりむずかしいよね? なにかしてもらっても当然、それどころか、もっとワガママきいてよって思っちゃう。どうすればいいのかな?」
 マコが問いかけると、ピカリィはくるりと身体をひるがえしました。

『そうだね。なにかのおかげでとかナニかのためになんて、なかなかそこまで思えなくて当然だヨ。だから、ぜんぜん問題ない。それはまだ自分の魂が修行中だから。目の前の、やるべきことに集中したほうがいいヨ。…………ただ、ほうっておけないのが、ナニかおそろしい理由で魂がダークサイドに堕ちそうなとき。それはココロのエマージャンシィ・緊急モード。なにかのためにとか、おかげなんてとても思えない。それどころか、なにかのせいでこうなってしまった、ぜんぶアイツのおかげでこんなひどいことに、ってどす黒いエネルギーに包まれた魂のダークサイド、それに堕ちそうなら、それは魂の最悪な大ピンチだヨ」

「最悪? それって、今までの緊急モードとどう違うの?」
『そうだネ。たとえば、《9.Thanks,Forgive 感謝と赦し》の時の緊急モードの時には、悲しくて深く傷つき、怒りや嘆きで自滅しそうだったけど、今回の緊急モードは、ダークサイドに堕ちて、なにかをめちゃくちゃに傷つけそうになっているんダ。どうしようもない暗いパワーが頭とカラダをぐるぐるして、爆発しそう。そんな大ピンチのときには、ぜったいに《ココロの緊急》モードの出番だヨ!』
「うわっ、ピカリィ、超真剣だね!」

『そうだヨ。でもね、極限状態で《ココロの緊急》モードを思い出せばなんとかなるかもなんて、無理かもってわかってル。世の中には、ほんとうにひどいコトがあるからネ。それをピカリィたちには、どうすることもできない。ピカリィたちにゆるされている人間との関わりや干渉は、こうしてときどきメッセージを伝えたり、ほんのちょっとの幸運をもたらせたりすることだけ。それだけに、ピカリィたちはいつだって人間の幸せを願っているんだヨ…………』

 宇宙船の窓に、彗星が大きな悲しみの涙のような、喜びの涙のような跡を残しつつ、美しい姿を残します。
 そして、控えめで、ひたひたとせまるような音楽があたりを包みました。
 ピカリィは、これが最後とばかり、ありったけのメッセージをみんなに伝えます。


♪♪♪《ココロの救急箱》 10.devote(何かのために)

 なにかのせいで、あいつのおかげでと、魂がダークサイドに堕ちそうなら……… 
 逃げろ、守れ、カラダ感じて、自然信じて!!

その20 ◆ステップ10 彗星への旅 10.devote (何かのために) 【ココロの救急箱】

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