テラダ一家の宇宙旅行 その12◆ステップ5 土星への旅【魂のアンチエイジング】

◆ ステップ5土星への旅


 宇宙船が加速して少しすると、大きなスクリーンには、美しいリングをまとった大きな星が映っています。
 たくさんのチリやガス、衛星をまとったその姿は、美しく装飾されているようです。


「うわあ、きれい。ねえ、これって、土星…………じゃないの?」
 ママがスクリーンにはりつきます。
「このリング、そうよね? でも、土星って、地球からめちゃくちゃ遠いんじゃないの? 今、ふっと思ったんだけど、この宇宙船、ワープ航法とかしてる感じもしないし、私たちどうなっちゃってるの? 地球にかえったら五百年たってるとか、そんなオチじゃないでしょうね?」
『ダイジョウブ』
 ピカリィがふわふわと宇宙船の中を漂いながら言います。
『だって、魂は一瞬で果てしない旅ができるんだヨ。肉体との結びつきがつよいと難しいけどネ。でも今みんなはマザーの母体の中にいるから、魂の修行をせずに、いろんなことが可能。思念の旅だから、浦島太郎にはナラナイ』
「ほ、ほんと?」
『ホントだヨ』
「よかった、安心したよ」
 みんながリングつきの星の姿に見とれていると、宇宙船にマザーヴォイスが響きました。

《さて。今までは、魂のケアの準備段階でした。しっかりとココロのケアをして、カラダをととのえ、いろんな情報に触れ、そのなかでも、もっとも大事な自分にフォーカスをしてきましたね。いよいよここからは、魂のアンチエイジングの実践です》
 すうっ、と宇宙船のなかが暗くなります。みんなは、すっかり慣れた様子で、思い思いのリラックスした姿勢をとっています。


☆ステップ 5.OUTPUT(アウトプット)


《今までコツコツ身に着けてきたこと、やりたいと思っていたことを
アウトプットしてみましょう。
何であれ、ものを考え、触れ、感じ、学んだことの最終的なしあげは、実践です。

そもそも、魂は、活動すること、何かを実現すること、
他者とのかかわりや知的な成長、感情の交流を必要としています。
カラダが運動を必要としているのと同じように。

ネットの中の情報やドラマ、誰かの体験、作り話で
「やったつもり」「体験したつもり」「知ったつもり」「感じたつもり」になっていると、
 ココロはどんどん老化して、自分自身の体験と疑似体験との
 区別がつかなくなり、オリジナルの活動をやめてしまいます。
 自分が生きているのか、情報の器としてだけ存在しているのかわからなくなる。
 すると、魂もかがやきを失い、よどんでいってしまいます。

 新しいチャレンジはめんどうなものですが
 やってしまえば、爽快感と充実感はそうとうのもの。
 準備がととのったなら、いつやろう? なんて、ためらわないで。
 やる気スイッチなんて、どこにもありません。
 自転車と同じ、えいっと気合でペダルをこぎだせば、歯車が周り、
 やっているうちにスイスイすすむのです。

 たとえ何度かつまづいても、それは必要なトレーニング。
 タマシイの若返りに不可欠なパワーとココロの筋肉がきたえられます。

 小さな実践から、大きなチャレンジまで。
 トライANDエラーを繰り返して、ココロの筋肉をモリモリとつけましょう。

 アウトプットがひとつ成功すると、自分を好きになる効果があります。
 高価な装飾品より、栄養ドリンクより、自分が元気に輝やける秘策です』
 
 じわっ、と船の中に明かりがもどってきました。
 それにしても、マザーヴォイスはセラピー効果があるというか、聞いていると落ち着きます。なんだかちょっと、うとうとしてしまいそうなるくらいなのです。
 「新しいチャレンジか…………」
 眠りかけたのでしょうか、パパは目をこすりながら言いました。
「そういえば、パパ、ずっと思ってたんだ。ジムに通おうかなって。会社かウチのちかくのジムに早起きして行って、会社の前にトレーニングとか。メタボ予備軍の診断をされてから始めようとは思っていたんだけど、腰が重くて。いざはじめて続かなかったらお金ももったいないし、どうしようって思いつつ、ずっとネットでウェアとかジムを検索してばっかりでさ」
『実行のスピードやスタイルは、パパのペースでいいんだヨ!』
 ピカリィがくるくるカラダをまるめはじめました。まるで、これから成長していく植物の芽のようなイメージです。そこからひとつ、するすると大きな葉っぱが生えてきました。
 その葉っぱから、黄金の光があふれでて、みんなを包みます。
『いつかちゃんと準備して始めようは、悪いオマジナイ。ある日をさかいに、一気に変わってやる! って気負うより、ちょっとずつ、じわじわとはじめるのがいいヨ。わらびやゼンマイみたいなうずまきの植物は、毎日すこしずつすこしずつ、ほぐれて、たちあがっていくよネ。あの動きは、負担のない成長のしかたなんダ。いっきに立ち上がろうとすると、気合が必要だし、反動もくるヨ。アウトプットもおなじ。かっこつけずにちょっとずつ、ジワジワと、だヨ』
 ピカリィがスクリーンにゼンマイの成長の様子を映し出してくれました。
 じわじわじっくり、腰をのばすようにうずまきをほぐし、のびをするように上に向かい、立ち上がり、伸びていくのです。


「なるほど。たしかにゆっくり、少しずつ伸びあがっていくんだな。スムースな実行の秘訣って、さあやるぞ!ってドラマチックなものじゃなくて、案外、気がつかない程度の変化から始まるのかな。いやたしかに、ウェア一式をそろえてからジム通いとか、パパ、柄にもなくかっこつけてたかも」
「やぁだ、パパは昔から恰好からはいっては、失敗してたじゃない。ギターを始める時だって、まず髪を伸ばして、ヒッピーみたいな服を買って、それでけっきょくFのコードでつまづいて、それっきりだったもの」
 ママが口をはさみます。
『パパさん。お仕事だってハード、電車通勤だって大変なのに、会社前にジム通いなんてハードル高いネ。まずは小さなことから始めてみよう。かっこつけてしまうと、ますますダメになったときに挫折しやすいから、まずは、慣れたシューズを履いて玄関から出てみて、公園まで歩いてみて。たまにお休みしたってだいじょうぶ。ちょっとずつ、ちょっとずつだヨ』
「うーん、それもそうだな。じゃあ、今あるスウェットにスニーカーで音楽でも聞きながら歩いてみるかぁ。それなら、すぐにできそうだし」
 パパの言葉に誘われるように、マコが上目遣いで言いました。
「…………私は、何か始めるっていうのとは違うけど、ちょっと、SNSから距離をおいてみようかなぁ。機械的にイイネしまくるとかレスしなきゃとか、毎日なにか発信しなきゃとかやめてみる。ねえピカリィ、何かをしなくなる、っていうのでも、アウトプットでいいのかな?」
 首をかしげるマコに、ピカリィはふわっと一度またたきました。
『もちろん! しなくなる、やめてみるっていうのだって、りっぱにひとつの考えの実践だヨ』
 ケンタは口をへの字に曲げます。
「ボクは、やめられないなー。ゲームもメールも。だって、大事な息抜きだしさ。もう一度、少年サッカーやりたいとは思うけど、みんなだって忙しいだろうし、誘って断られたらカッコ悪いし」
『ケンタくん。もしもいろいろシュミレーションしスギ、なにかを始めたいのに度胸がないピンチのときには、《ココロの救急箱》モードの登場だヨ!』
「度胸のない時の《ココロの救急箱》?」
『ソウ。疲れた時の栄養剤、みたいに』

 スクリーンでは、土星が神秘的な輪をみせびらかすようにかがやきます。
 宇宙船の中では、ちょっとグルーブがかったリズムが流れ、ピカリィがノリノリで踊りだしました。
 思わず、つられてみんなもビートをとっています。


♪♪♪《ココロの救急箱》 5.OUTPUT(アウトプット)

 あたってくだけろ!! / やるっきゃない。

 調べすぎて考えるすぎると行動するチカラは奪われ、機会は失われていく
 Take it easy、たかがちっぽけなおためしだとココロ軽くしてやっていく
 やってみてダメだったら、改善してリトライ
 うじうじしているだけじゃ、改善のためのリアルなデータもあつまらナイ
 もじもじしながらシュミレーションだけじゃもったいナイし、つまらナイ
 それに、なにかにトライしてさいあく大コケしても、たいていは三年で笑い話
 やらない後悔は一生、先手必勝、いっしょうけんめい覚悟決めてアウトプット!

 当たってくだけろ、ココロはだけろ、覚悟決めて隠さずに臆さずに行くだけダロ!
 やるっきゃない、後はナイ、こわくナイ、試すしかナイし、自分しかできナイ
 少しずつ少しずつぜんまいが起き上がるみたいに
 伸びて行って、将来へと、興味の芽をぐんぐんと伸ばして実行!
 成功しなきゃと思うからこわい、かっこつけたいから弱い、
 ダメモトでためすパワーがじつはけっこうすごい
 はじめからできる奴なんていない、
 もしもやってダメなら修正、泣いた後に笑ってととのえる態勢、
 トライアンドエラー、やらないことより最悪はないから、
 やりつづければ何かはきっと残るから!
 やった結果は散々でも、じつは経験値に加算できる資産
 ほんのちょっとのアウトプットでも、君の中でかがやくたいせつな財産
 一生つかえるたいせつな武器、不器用でもまわりを気にせず一歩前進
 当たってくだけろ、ココロはだけろ、覚悟決め行くだけダロ!
 
 ハートに火をつけて、度胸つけて、コケないように気を付けて
 でももうサイは投げられ才能をためされ、チャンスをさしだされ
 やるっきゃない、後はナイ、こわくナイ、試すしかナイし、自分にしかできナイ!
 当たってくだけろ、ココロはだけろ、覚悟決めて行くだけダロ!】

 音楽がやみ、窓の土星が小さく遠ざかっていきます。
 拍手のあと、いつものカタチにもどったピカリィは、うつむいているママの前に行きました。
『どうしたの、ママさん』
「私はね…………」
 ママも、考え考え口をひらきます。
「やるっきゃないって言われても、残念だけど、やりたいこと、ぜんぜん思いつかないのよ。もう、しょうがない、なにか思いつくまで、せめて週に何日かは、ちゃんとまごころこめたゴハンを作ろうかな。けっこう、献立とか考えるの好きだったし。小さなことからコツコツと。どうせレンチンするにしても、ちょっとは違うかなって。さいきん、サボりすぎてたものね」

 ママの言葉に、みんなはおおよろこび。
 カレー、肉じゃが、ぎょうざ、からあげ。食べたいメニューをリクエストされて、なんだかママはにこにこしています。


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