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#4 心と真摯に向き合えたら、未知の対岸に渡るのも怖くない

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最初は、かすかな波立ちだった。
些末な違和感。誰の日常にもあるようなもの。

だけど、満たされない。想いと現実のバランスが取れない。
いつしか違和感は荒波のうねりとなって、今にも足元をすくわれそうだった。

だから、彼女は渡ることにした。
音楽とデザイン、希求する表現を求めて向こう岸へ。
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自己紹介:yamamoto hayata 山本 隼汰
共創サークル『不協和音』と、このメディア『対岸』のオーナー。

自己紹介: Monami
ミュージシャン/Webデザイナー。東京大学を卒業後、大手企業やITベンチャーに勤務。仕事のかたわら趣味でピアノやキーボード演奏を行っていたが、本業とするべく独立。現在は地方をベースに、東京と2拠点で活動を展開していく予定。活動の軸となるコンセプトは「都会の夜を甘く彩るアーティスト」。
(連絡先)Instagram: @mona_scnights

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ミュージシャン/Webデザイナー:Monamiさん

やりたいことはわかっていても、できない現実。そこにあった違和感

たぶん、多くの人が理解できるはずだ。
「やりたいこと」と「現実」の間に横たわるギャップのもどかしさ。
ふくれていく違和感は、決断までのカウントダウンだった。

山本さん:以前は、いわゆるバリバリのビジネスパーソンだったじゃないですか。いきなりミュージシャンとWebデザイナーとして独立するって伺ってびっくりしました。すごいキャリアチェンジだな、と。

Monamiさん:以前を知っている人はきっとそう思いますよね。

山本さん:何かきっかけがあったんですか?

Monamiさん:音楽に関して言えば、幼い頃からずっと続けていました。大人になって就職してからは、時々友人とスタジオで演奏するくらいでしたけど。

山本さん:ジャンルで言うと?

Monamiさん:スムースジャズって、わかりますか?

山本さん:僕のイメージの範囲では、ジャズ=スウィングとか、かっこいい感じの音楽…かな。

Monamiさん:それはきっとスタンダードジャズですね。その王道から派生したのがスムースジャズ。もっと甘くてメロウな感じです。

山本さん:なるほど。
でも、もともと趣味で続けていたのに、仕事にしようと思ったきっかけがあったんですか?

Monamiさん:明確なきっかけは…ないかもしれない。漠然とした想いが少しずつ芽生えていったというのが正確だと思います。

山本さん:「もっと音楽をやりたい」と思うようになったとか。

Monamiさん:人生において、仕事をメインに、好きな音楽をサブの趣味に位置づけていること自体に違和感を覚えるようになったんです。
数年前に「ピアノやキーボードでしっかりジャズの演奏をできるようになる」って、新年の目標を立てたんですよ。

山本さん:それ、実行できました?

Monamiさん:できなかった。練習しなきゃって思っても、忙しくなると結局できなくて、日常に押し流されてしまったんですよね。

山本さん:やっぱり、仕事をしながらだと時間を確保するのが難しいし。

Monamiさん:そうね。「もっとちゃんとやりたい」「時間があったらいいのに」って、渇望するような気持ちになっていきました。

山本さん:音楽が好きなのに片手間でしかできない、好きなものにちゃんと向き合えない、みたいな。

Moniamiさん:うん。それが自分のなかで、違和感としてどんどんふくらんでいったんです。

山本さん:なるほど。じゃあMonamiさんにとって音楽を仕事にしようと決めたのは、自分の気持ちに正直になったってことだったんですね。

大事なものを心に問いかけたら、どうやって生きたいのかが見えてきた

どれだけ評価されても、心は満たされなかった。
今、自分が歩いている道にも、きっとゴールはある。
でも、本当に歩きたいのは別の道なんだって、知っていた。

山本さん:うーん…でも、やっぱり独立するってすごい覚悟や勇気がいると思うんです。いわゆる一般的な価値観に則るなら、趣味と割り切って続けていく選択肢もありますよね。それでも決断した背景には、何があったんでしょう?

Monamiさん:仕事に対する価値観の変化ですね。会社で働いていれば、がんばって成果を出したいし、認められたい、評価されたいと思うのは自然なことだと思います。それが求められてもいるし。
でも「もっとがんばらなきゃ、もっと認められなきゃ」という気持ちがどんどん強くなってしまって。

山本さん:本当は、もっとやりたいことがあるのに…ってことですね。

Monamiさん:そう。評価を得ても、認められても「もっと」って気持ちには際限がない。だから、満たされない。一方で、自分がやりたいことは全然できていないという事実にも、気づいていました。

山本さん:駆り立てられるように求めていたものが、本当に大事にしたいものとは別物だった。

Monamiさん:「こうでなきゃ」と思っていた自分と、「こうしたい」と思う自分の間のギャップが、違和感の正体だったのかな。

山本さん:うん。行きたい道は見えているのに、違う道を歩いているようなね。

Monamiさん:息切れしたりつまずいたりしながらも、ビジネスっていうルートは着実に進めてはいたんです。でも、「あれ、私は本当にその頂上に行きたいんだっけ?」って。登りたい山は見えているのに、何で違う山を登っているんだろうと思ったんですよね。
だから、ルート変更しようと決めたんです。

山本さん:なるほど。自分の中の違和感、違いを埋めにいったんですね。
さらにもう一歩踏み込みますが、やっぱり仕事と並行する選択肢もあると思うんです。いわゆる仕事は生計を立てる手段として、ワークライフバランスを保ちながら思いっきり趣味の時間を楽しむとかね。

Monamiさん:核心に迫ってきますね(笑)
率直に言うと、私にはそのやり方がフィットしなかったんです。つらくはないけど心底楽しめるわけでもない仕事をほどほどにがんばって、残りの時間で好きなことをやるのが合わなかった。

山本さん:できる人もたくさんいるんでしょうけどね。

Monamiさん:そう思います。ただ、私にはできなかっただけ。気持ちと時間をうまく分散しながら器用にやれる自信はないし、音楽もデザインも、突き詰めようと思ったら片手間にできるものじゃないから、独立することにしたんです。

山本さん:うん、なるほど。自分で納得できるからこそ、普通とは違う道を選べたってことなんでしょうね。

彼女の答えは、彼女の場合の話。
でも、あえて「違う道」を選んだっていいと教えてくれる。
答えはいつも、自分の内側にしか見えてこない。

異なる時間が流れる2つの場所。揺れながら、行き来しながら、表現を磨いていく

山本さん:Monamiさんは、アーティストとしてのコンセプトを持っているんですよね?

Monamiさん:はい。コンセプトは「都会の夜を甘く彩るアーティスト」で、音楽とWebデザインという手段を使って表現していきたいと考えています。メロウで、大人っぽく、心ときめく感じ。モチーフで言えば都会の夜景、カクテル、スタイリッシュな装いが似合うバーとか。本気で甘い、身もだえするような雰囲気、そこに似合う表現を追求していきたいと思っています。

山本さん:言葉で伝えるの、ちょっと難しそうですね。

Monamiさん:だから、音楽で聴覚から、デザインで視覚から表現していきたいな、と。世界観を感じていただけたらうれしいなと思います。

山本さん:コンセプトに掲げるくらいだから、やっぱり都会が好きなんですか?

Monamiさん:都会が好きです。ただ、今は一旦拠点を実家のある地方に置いているんです。

山本さん:まさかの回答。

Monamiさん:都会って魅力的ですし、デザインや音楽というフィールドで考えても東京にも軸足を置きたいと思っています。
社会情勢の影響もあり、一旦都会を離れたのがきっかけではありますが、前から、東京にずっといると息が詰まりそうになると思うことがありました。

山本さん:何だろう…ごみごみしてるから?

Monamiさん:確かに環境的にはそういう側面は否めないよね。
あと、何て言うか…画一的な感じがして。一言で「都会」って言っても、街にはそれぞれの特性があって、景色も空気感も全然ちがいます。でも、たとえば住まいとか、買い物する場所とか、進学や上京によって都会にやってきた20代が経験するもの、見るもの、考えることって、そんなにちがわないと思うんですよね。均一な感じ。それを経験するフェーズは過ぎたから、一旦距離を取ってもみるのもいいかな、と。

山本さん:僕も西日本の出身なんで、地方と都会の違いってわかる気がします。実際に2拠点をかまえてみて、どんな違いを感じますか?

Monamiさん:人が少なくて、自然が多くて、何より一人あたりのスペースが広い。ゆとりがあるっていうのは、やっぱりすごく感じますね。この感覚、隼太君が都会生まれ都会育ちの人だったら伝わらなかったかもしれない。

山本さん:確かに。あと、時間の流れ方も違うと思いませんか?僕、実家に帰ると同じ24時間を過ごしているはずなのに、生活のスピードが全然違うように感じるんです。

Monamiさん:うんうん。田舎時間はゆるやかさに包まれている気がする。

山本さん:そう、僕、東京にいるとどんどん加速していちゃうんです。時間感覚も、生きる速さも、際限なく速まっていってしまう。だから時々帰省してリセットしたくなるんですよ。

Monamiさん:前へ前へ、上へ上へ、もっともっともっと。どんどん巻いていこう。高いところを目指そう…って感じですよね、都会は。自分を磨く、伸ばすという意味で良い面もあるんですけど。
個人的には、表現や創作活動をするのには、地方という拠点も持っておくことが合っているなと思っています。

山本さん:Monamiさんのコンセプトとも親和性がありそうですよね。どこかゆったりとして、やわらかさを感じるものなんだろうと思った。

Monamiさん:余白がある、ってことかな。

山本さん:わかる。余白から生まれるもの、時間やスピードの制約から放たれたものを、求めているのかもしれないですね。
もちろん、都会で、スピード感や密度の高さから生まれる表現や創作も存在すると思います。でも、何を求めて、どんな創作をするかによって、田舎と都会の違いを活かしていけたらもっとおもしろいですよね。

Monamiさん:うん、そうですね。都会のエッセンスを取り込みながら、田舎のゆとりのなかで創作をするのが、今の私には合ってる気がしています。

拠点を2つ持つことは、異なる自分の存在を許すことなのかもしれない。
都会で研ぎ澄まされる自分も、田舎でゆとりを味わえる自分もいい。
違いがただの違いとして、良し悪しもなく息づいている。

視点を変えるだけでいい。いくつもの対岸をまっすぐ見つめて

山本さん:このメディアは「対岸」っていう名前なんですけど、Monamiさんのお話を伺って、いろんなものを比較しながら道を選んでいるんだなって思いました。それはつまり、Monamiさんが今いる場所から対岸を見つめていて、その間を流れている「違い」にも、目をそらさず向き合ってるってことなのかな、と。

Monamiさん:そういう意味で言えば、自分の中にも、自分と他者との間にも「違い」はたくさんあって、こちらから対岸を見たり、対岸から見えるこちら側を想像したりしてることは多いかもしれません。

山本さん:たとえばどんな時に?

Monamiさん:やっぱり、音楽やデザインの専門教育を受けてきた人たちと比べると、違いというか…引け目を感じることは多いです。他のミュージシャンやデザイナーの方が専門教育を受けていた時に、私は別のことに時間を費やしていたわけですから。

山本さん:確かに、いわゆるビジネスサイドのキャリアを突き進むって感じでしたよね。
でも、必ずしもネガティブなだけでもないんじゃないですか?

Monsamiさん:そう思っています。自分のバックグラウンドは、逆に言えば多くのミュージシャンやデザイナーの方が経験されていないことであって、そういう人生を歩んできたからこそできる表現があるとじています。異色な経歴を、逆に強みにしていきたい。

山本さん:ビジネスサイド出身の表現者、っておもしろそうですよ。

Monamiさん:私、自分のやりたいことや表現したい世界観はもちろんあるんですけど、届けたい相手の視点やニーズを大切にしていきたいと思っているんです。
表現者である以上、個性という点でも差別化という点でも独自性は必要です。でも、誰かに届けたいと思うなら、相手に寄り添うこと、ある種のUXも大事だよなって。

山本さん:相手のニーズを受け入れて、共創するような感じですね。そういう発想だと、違いがあるからこそおもしろみが生まれるのかもしれない。

Monamiさん:想いや目的がぶれなければ、手段や手を組む相手って多様でいいと思う。むしろ、かけ離れているほどおもしろいのかも。セッションやコラボレーションによってたどりついた先が思っていた対岸とは違っても、そこから見える景色を楽しめたらいいのかな、と。

山本さん:いいですね。まさしくジャズっぽいじゃないですか。本日はありがとうございました。

物事はいつだって相対的。自分が認知している自分と、他者から見える自分は、きっと全然違って見えるだろう。
違いが奏でる表現の豊かさに気づけたら、たぶん、どの対岸にだって臆せず渡っていける。

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メディア『対岸』では、”違いって、おもしろい”をコンセプトとし、魅力的な個人との対話を通して、その人にとっての違いや、違いの楽しみ方を記事にして発信していきます。
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