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『走れメロス2021(冒頭)』ショートショート48

メロスは炎上した。

必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬとツイートした。

炎上した。

メロスには政治がわからぬ。

炎上した。

メロスは村の牧人である。

Instagramに山々と羊たちの写真や羊のミルクで作ったチーズ料理の写真を載せて暮らしてきた。

けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれたこのシラクスの市にやって来た。

メロスには父も、母も無い。女房も無い。

十六の、陽気な妹と二人暮らしだ。

この妹は、よくTikTokに踊ってみた動画を挙げていた。

TikTokで知り合った或る陽気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。

花婿の口ぐせは「PONPON」「マジ卍」であった。

そんな二人の結婚式が間近なのである。

メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

メロスには竹馬の友があった。

セリヌンティウスである。

今は此のシラクスの市で、ITエンジニアをしている。

その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。

昔は夜中の2時、3時までLINEのビデオ通話でよく盛り上がっていた。

久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

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