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金子勇とWinnyの夢を見た はじめに

※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の一日目の記事です。

はじめに

Winnyとは、2002年に開発された、Peer to Peer(P2P)技術を使用したファイル共有と電子掲示板のための日本発のソフトです。

当時、ファイル共有ソフト「WinMX」が流行していましたが、2001年に京都府警によって2名が逮捕され、利用者は匿名性の高いソフトが作成されることを望んでいました。一方で、東京大学で特任助手に就任した金子勇さんは、P2Pネットワークの有効性に将来性を感じ、新しいアイデアを盛り込んだファイル共有ソフトの開発を行いました。

1990年代から世界的に、ネット上にアップロードされた音楽やゲームなどの著作物に対して問題視されていました。しかし、法整備が進まず、日本の警察は拡大した法解釈によって利用者の逮捕に踏み切りました。それでも利用者は増え続けたため、ファイル共有ソフトを作成した金子さんが逮捕されるという、前代未聞の事件が起こりました。

Winny裁判については、壇俊光さんが書かれた小説『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半』(2020)(※1)に詳しく書かれています。登場人物は実名で書かれていますが、ジャンルが小説となっているところが、なにやら「この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。」と煙に巻くところなのでしょうか。

2023年3月には映画『Winny』(※2)が公開され注目を浴びました。この映画の裁判の場面は、壇俊光さんが監修したそうです。

 2004年5月9日に金子氏が著作権法違反ほう助容疑で逮捕され、もうすぐ20年になります。事件当時を知る人の多くは、未だ言葉少なです。これは、事件発生当時から、逮捕の正当性を疑問視する声は多かったにもかかわらず、Winny裁判で無罪となった後も、金子氏の名誉の回復が十分でないことを感じさせます。

 未だにWinnyというソフトが「絶対悪」であるという認識が確実に続いています。Winnyの使用が許容される判決に至っていません。不具合をアップデートすることもできません。

当時、Winny事件によって、多くの開発者が身の危険を感じ、さらに多くの関係者が彼らを守ろうとして自由な発言ができなくなっていました(※3)。

私は、金子さんへの評価とともに、彼の作り出した作品への評価を改めて行ってほしいと感じています。

 『Winny』という映画で金子勇さんを知る人が増えましたが、一人の人間を映画で描き切ることはできません。関係者それぞれ、個別の思いがあるはずで、様々な角度で調べてみたいと思います。ただし、多くの内容は確証が持てるものではなく、あくまで私の推測になっています。しかし、金子氏という人物を語る上で見逃してはいけない部分が含まれていることを確信しています。

 当時、何が問題だったのか、何が議論されなかったのか、そして現在、何を議論しなければならないのか、そんなことを考えながら当時のことをつづっていきたいと思います。


※1 『Winny 天才プログラマー金子勇との7年半』, 壇俊光, インプレス NextPublishing, 2020-4-24

※2 『Winny』, 監督・脚本 松本優作, 出演 東出昌大、三浦貴大, 2023-03-10劇場公開

※3 高橋信頼, 「Winny作者の逮捕で,研究成果のソフト公開を中止」, 2004-09-14, 日経XTECH,


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