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人民の指導者、習近平(人民领袖习近平)

 2021年に中国共産党の建国100周年を迎え、中国共产党第二十次全国代表大会で提出された「中国共産党規約(改正案)」の中に盛り込まれた習近平の社会主義思想について考えます。「三つの重要な思想」などのように、とにかく「幾つの〇〇」という言葉が多く、前提となる知識がない我々には何のことだかわからないことが多いので、その辺りを探ります。

三つの重要な思想(“三个代表”重要思想)

1.マルクス・レーニン主義(马克思列宁主义)
 マルクス主義は、中国共産党が国を樹立し、繁栄するための基本的な指導思想です。弁証的唯物論史的唯物論の世界観と方法論を確立し、党全体の理論として特に重要視しています。

2.毛沢東思想(毛泽东思想)
 習近平は毛沢東の思想に深く同調している。実は3大思想と唱える鄧小平についてはあまり重視していない。毛沢東は理論と実践を好み、経済合理性の欠いた政策は数千万人に及ぶ飢餓者を出したにも関わらず、その過ちは語られない。

3.鄧小平理論(邓小平理论)
 鄧小平は、毛沢東と真反対の人物です。毛沢東の後に国家主席となった劉少奇とともに毛沢東のやり方からの路線転換に挑み、中国経済を成長させたが、あくまで思想にこだわる毛沢東は10年に及ぶ文化大革命を進めた。

四つの意識(四个意识)

 2016年1月に習近平が打ち出した統治理念。「政治意識、全体情勢の意識、核心意識、整合性意識」を指す。

  1. 政治意識: マルクス主義への信仰と、中国の特色ある社会主義と共産党への信念

  2. 全体情勢の認識: 党と国の全体情勢を考え、中央の決定を断固として実行し、中央の命令が円滑に流れるようにすること

  3. 核心意識: 習近平が党中央委員会の核心であり、全党の核心となったことを指す

  4. 整合性意識: 習近平を核とする党中央委員会の思想・政治・行動に足並みを揃えること

二つの確立(两个确立)

 2022年10月の第20回党大会で出された。習近平の指導的立場を不動のものとし、習近平の長期政権を確実にするための、習近平に忠誠を誓うスローガン。「二つの確立」は「時代の要請、歴史の選択、人民の願望」だと強調し、習近平が「党の中核、人民の指導、軍の司令官である」と発言した。

党規約には明記されなかった。

1.習近平同志の党中央・全党の核心としての地位の確立
2.習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の指導的地位の確立

五位一体(“五位一体”总体布局)

 2012年11月8日から14日まで開催された、中国共産党の全国代表会議で出された方針で、経済、政治、文化、社会、環境の5つの統合を指す。

4つの包括的戦略(“四个全面”战略布局)

 党のガバナンスの枠組み。

  1. 包括的に近代社会主義国家を建設する

  2. 包括的に改革を深化させる

  3. 包括的に法の支配に従って国を治める

  4. 厳格に党を治める

四つの自信(四个自信)

 2017年10月、中国共産党第19回全国だ表大会で、習近平が打ち出した。中国の国家体制は、中国の文化に深く根ざし、人民から深く支持されている。外国の制度を学ぶことは必要であるが、模倣してはならないとし、以下の4つを掲げた。

  1. 道の自信:中国の特色ある社会主義の道を開拓した

  2. 理論の自信:中国の特色ある社会主義の理論体系を形成した

  3. 制度の自信:中国の特色ある社会主義の制度を確立した

  4. 文化の自信中国の特色ある社会主義文化を発展させた

 また、2022年に習近平は、新しく「歴史の自信」を提案している。

習近平の歴史観

 習近平の語る「正しい歴史」は、中国共産党の「党史」であり、歴史的真実の探究を一切排除したものです。歴史を重視する習近平は、自分の望む党史によって核心としての権力の座を固め、自分のために団結力を高める意図があることは明らかです。

 中国には古くから標語やスローガンが溢れています。かつては目標としての役割を持っていたものが、今では習近平の自賛であり、人民へ統制を強いるためのものになっています。

 世界に冠たる国家を目指している中国が示す姿勢としては褒められたものではないと言わざるを得ません。


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