『食べごしらえ おままごと』 『肉とすっぽん』 〜食の本紹介〜
近所にできた「みんなでつくる本とアートの実験室」ラムリアにて、シェア本棚を一つ借りるようになったのは2ヶ月前のこと。食関係の本を集めようと決めて、100冊の本を紹介することをとりあえずのゴールに設定しました。フェイスブックからNOTEに場所を移して、4冊目からスタートです。
4、『食べごしらえ おままごと』 石牟礼道子著
ひな祭り、菖蒲の節句(端午の節句)、七夕祭りに正月。そのたびに家族や地域の人たちで食卓を囲んできた。
石牟礼道子さんが幼少期をすごした水俣での暮らしを食の記憶をたどりながら語ると、それは桃源郷のように美しく、すべてがみずみずしく生き生きとしていて、読んでいてうっとりしてくる。
少女は躰のすみずみと心のひだで記憶している。素材の色やにおい、海や川、山の風景、いそいそと食べごしらえをする大人たちの姿。
その観察眼と描写の力で、読んでいて、ずっとこの世界にいたい、と思ってしまう。
さらには、冒頭から登場する父の姿が印象的。「貧乏だけど気位の高く」「季節の行事を大切にする」父のあり方は、現代に対するアンチテーゼのようで、ただの思い出話にならないで、エッセイの背骨になっている。
私はこの本があまりに素晴らしく、末尾で紹介されている本の一覧をたどっていくうちに、食エッセイにハマっていった。
・出会った場所:「紙片」@広島県尾道市
5、『肉とすっぽん』平松洋子著
ジビエブームといえども、鹿肉とウサギ肉をちょこっと食べたくらいで、仕とめて解体して肉になるまでのことは想像が及ばない。
この本を通じて知らなかった狩猟の世界を垣間見た。
例えば、石川県加賀市の坂網猟。半月の夜、静寂の中で黒い服をきて網ひとつで、池の向こうから飛び立つ鴨をしとめる。江戸時代からの伝統の猟。
ゆんゆんゆんゆんと闇に飛びたつ鋭い羽音。そこに放たれる網。ドスンと落ちる鴨。儀式的にも思えるプロセスをいくえも経て、職人たちが一匹の命を仕留める。
そしてバトンを受け取った料理人は、肉の状態から職人たちの技を感じ、料理に変身させていく。
そこには無駄がなく、つつましく、ありがたい循環がある。食べることへの信頼感が込み上げてくる。
ジビエにもやばい話はいくらもあるだろうが、平松洋子さんの切り取る世界はうつくしい。
同時に、平松さんはやっぱりすごいと思う。
猟師やシェフと関係をつくり取材する力。官能的なくらい五感を回転して描写し、そこにいるかのような臨場感を感じさせる文章。肉が料理となったとき、味の違いを感じとれる舌の感性。そして読者に読みやすく伝える力。
全てがそろった平松ワールドに導かれてジビエの知らなかった世界を覗きこみ、熱中して読み終えた。
・出会った場所 西田書店@横浜市鶴見区
↓今の本棚
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