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憧れてしまう人

その人はいつも家族と一緒に買い物に来る。

190センチに届きそうな長身の旦那さんと、ひょろひょろとした息子さんと。

私は息子さんが小さい頃から見ていた。恥ずかしがってすぐにお母さんのかげに隠れてしまう男の子。今も面影がある。

息子さんの性格は旦那さん譲りとみえ、旦那さんはいつも静かに奥さんの数歩うしろを歩いている。

私が商店街に来てから10年はたつけど、見かける時はいつも3人一緒だ。



その人はいつも決まった店で買い物をする。


お肉屋さんにお魚屋さん。昔勤めていた店にも、卵をいつも買いに来てくれた。

来るたびに一言、お店の人と会話をする。そのとき、とびきりのニコニコした笑顔がそこに咲く。

その人をみていると食卓に必要なものを着実に買っていく。おいしいと思うとリピートしている。

ただ、手堅いものだけじゃなくて、珍しいものが並んでいるときも、「これ食べてみる?」なんて息子さんに聞きながら楽しそうに買ってくれる。

それが決して、応援してやろう、と無理している感じでも、ノリで買っちゃった、という勢いのある感じでもなく自然でさりげない。

私はその人のニコニコした笑顔を見かけるたびに、何か綺麗なものを見ている気になる。

しゃりしゃりとした素材で、原色の緑色をしたエコバッグを肩から下げていて、ソバージュの髪を後ろに束ねている。彼女がそのエコバッグを持っていると、緑色の葉っぱに花が咲いてみるみたいだ。


たぶん、私はその人に憧れている。

商店街活性化なんて言葉を使ってしまう私なんかよりずっと、確かで尊いものがある気がする。

それは、家族と毎日、確かに暮らす、ということ。

そして、家族の暮らしを中心になってつかさどる、お母さんという存在はとても大きいなと思う。

家族みんなが、その人の美意識が反映された暮らしの中で何十年と過ごすのだから。


あの男の子が大きくなったら、家族と商店街に買い物にきていた頃のこと、きっと優しく思い出すだろう。きっと商店街や個人商店を好きな大人になるんじゃないかな。

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