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魁!!テレビ塾 第6訓『続・最後から二番目の恋』

【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

『続・最後から二番目の恋』を
“熟年版テラスハウス”にするな

 押忍!! ワシが当テレビ塾塾長、福田フクスケである!

 諸君は『最後から二番目の恋』を知っているか? 2012年にフジテレビの“木10”枠で放送されたドラマで、現在はその続編が放送中だ。

 この作品、ドラマファンや評論家などの“目利き”たちから軒並み評価が高い。酸いも甘いも噛み分けて“恋愛の季節”を終えてしまった熟年男女が、恋のようで恋でない微妙な関係と淡い感情を通わせていく。その心の機微をリアルかつコミカルかつリリカルに描く会話劇の妙は、中井貴一と小泉今日子のどこからがアドリブかわからない卓越した演技力もあいまって、非常にクオリティが高い。

 ところが最近、「バブル世代を引きずったおじさんおばさんが、このドラマに感化されて浮わついているのがイタくてキモい」といった感想をネットでちらほら見るようになった。どうやらこのドラマから、男性週刊誌でやたらと流行った「いつまでもガツガツ現役で恋愛&セックスしなきゃね!」的なメッセージを受け取ってしまった層がいるらしい。「SATC(セックス・アンド・ザ・シティ)はおもしろいけど、SATCに影響されちゃってる女はうざい」と同じ現象が起きつつある危険を、ひしひしと感じるのである。

 劇中で中井貴一と小泉今日子は、おしどり夫婦のように互いを認め合っているが、決して結ばれることはない。その関係は、必ずしも恋愛やセックスに至らないパートナーシップもあり得るのだという多様性と可能性を、我々に教えてくれる。このドラマが、いつまでも発情していたい(しなきゃいけない)という強迫観念に駆られた中高年のための“熟年版テラスハウス”になってしまわないことを、ワシは切に願っているのだ。

◆今月の名言

「何かを選ぶということは、そのぶん、違う何かを失うということ」吉野千明(演・小泉今日子)

『続・最後から二番目の恋』2014年4〜6月 木曜22時(フジテレビ系)

古都・鎌倉を舞台に、バツイチの市役所職員(中井貴一)、仕事に身を捧げてきたテレビ局プロデューサー(小泉今日子)をはじめ、恋と人生に惑う中高年の姿を描く。“大人の青春ドラマ”の第2シーズン。

(初出:学研「GetNavi」2014年7月号)

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【2023年の追記】

今や、この当時よりもテレビ視聴者はさらに高齢化し、ドラマ枠の増加・細分化がますます進んでいるにもかかわらず、中高年が主役のテレビドラマは思ったよりも増えていないな、と感じます。

あ、『最高のオバハン 中島ハルコ』みたいなのは別ですよ。あれは『風間公親』とか『家政婦のミタ』とか『女検事ササガキ・ゴボ子』(そんなドラマはありませんが)とかと同じで、極度に超人化/戯画化された主人公が活躍するある種のキャラクタードラマなんで。そうじゃなくて、地に足のついた等身大の平凡なおじさんおばさんが繰り広げる、リアルな会話劇や群像劇みたいなドラマがもっとあってもいいのに、と思うのです。

近年は、女性同士のシスターフッドにクローズアップした『ハコヅメ』や『ブラッシュアップライフ』のようなドラマが流行りですが、中高年を主役にしたものは思いつく限り『その女、ジルバ』『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』、あるいは『監獄のお姫さま』くらいです。

また、最近は性的マイノリティを含む男女が食や料理を通して相互にケアする連帯関係を築いていく『作りたい女と食べたい女』『今夜すきやきだよ』『かしましめし』のようなドラマが立て続けに放送されていますが、こちらも登場するのは若い世代に限られます。

現在放送中の『日曜の夜ぐらいは…』は、まさに『最後から二番目の恋』と同じ岡田惠和のオリジナル脚本ですが、これもやはり若い世代のシスターフッドを描いた作品。今こそ、中高年男女による性愛を介在しない相互ケアやパートナーシップのあり方を描くドラマが出てきてもいいと思うのですが……。


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