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魁!!テレビ塾 第7訓『ファースト・クラス』

【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

エリカ様いじりを楽しむ
再現ドラマ型バラエティだ!

 押忍!! ワシが当テレビ塾塾長、福田フクスケである! 突然だが、諸君は沢尻エリカ主演のドラマ『ファースト・クラス』をどう思う? もちろん「別に……」というリアクションは厳禁だ。

 ファッション誌編集部で働く女同士のドロドロの争いに、沢尻演じる“地味で純朴な”新人編集者・ちなみが巻き込まれ、いじめられる、という設定なのだが、役ではない“エリカ様”本人が背負うイメージと情報量が多すぎて、全然純朴に見えないのがすごい。そもそも、サブタイトルも冒頭のナレーションも、役名ではなく「沢尻」と呼んでいる辺り、完全に確信犯。この作品の目的は最初から、後半で成り上がり、逆ギレする“エリカ様らしいエリカ様”を気持ちよく堪能することなのである。

 本作のもうひとつの特徴は、登場人物のドス黒い本音が“心の声”としてナレーションと字幕で差し挟まれる演出。特に、菜々緒が演じる腰掛け編集者・レミ絵の「深く深く落ち込んでください。ダイオウイカの生息水域、水深500メートルくらいまで」といったセリフが、“ユーモア溢れるブラックなセンスで話題”ということになっているのだが……。う〜ん、こういうニコ動のコメント的な演出って、まるでバラエティ番組を見ているようで、安っぽく感じてしまうんだ、ワシは。

 でも、ツイッターなどでは「ドロドロでおもしろい!」とけっこう評判らしい。視聴者にとっては、自分が見ているのがドラマなのかバラエティなのかなんて関係ないもんな。ドラマとしては正直凡作だが、これは“もしも沢尻エリカがこんな役をやったら”という企画をおもしろがる、“全編が再現ドラマ”の超豪華バラエティとして楽しむべきだったのだ!

◆今月の名言

「触るな! カメアシごときが!」(菜々緒a.k.aレミ絵)

『ファースト・クラス』2014年4〜6月 金曜23:10(フジテレビ系)

憧れのファッション誌編集部に入った吉成ちなみ(沢尻エリカ)が、バイトから編集長へと成り上がるシンデレラストーリー。レミ絵(菜々緒)や小雪(田畑智子)の“女の格付けバトル”が話題に。

                (初出:学研「GetNavi」2014年8月号)

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【2023年の追記】

このドラマ、今振り返ってみても大して傑作だったとは思いませんが、各局がSNSウケすることを模索していた時期の代表的なドラマだったと思います。

当時、犬山紙子さんと瀧波ユカリさんが提唱していた「マウンティング」という概念をさっそく雑に取り入れたり、心の声をナレーションと字幕で入れるあざとい演出がちゃんと話題になったり、登場人物に副音声で解説させたり、人気キャラ・レミ絵のフェイクドキュメンタリー番組を作ったり、1クールだけ空けてすぐに続編が作られたり……と、フジテレビらしい機動力の高さと節操のなさがきちんと発揮されていました。

沢尻エリカや菜々緒の”本人性”を利用し、コンテンツとして効率よく楽しむために、たまたまドラマというジャンルが選ばれた……みたいなこの手のやり方は、しかしその後、追随する作品がほとんど現れませんでした。

おそらくその代わりに現れたのが、『山田孝之の東京都北区赤羽』や、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』などに代表される「俳優が本人役を演じるフェイクドキュメンタリードラマ」で、数年前までテレビ東京がこのジャンルを牽引していたのは皆さんご存知の通りです。

結局、沢尻エリカはその後「何を演じても本人がそのインパクトを超えていく」という状態になってしまいましたが、最近フェイクドキュメンタリー風ドラマを制作していないテレビ東京がそろそろ彼女を本人役で起用し、薬物依存からの復帰のために時代劇に姫の役で出直す、というドラマを用意した方がいいのではないでしょうか。

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