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魁!!テレビ塾 第8訓『バイキング』

【注記】
これは、学研「GetNavi」2014年2月号〜2017年5月号に連載していたテレビ評コラムの再録です。番組データ、放送内容はすべて掲載当時のものです。私の主張や持論も現在では変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

テレビはもはや号泣県議を
おもしろくイジれない

 押忍!! ワシが当テレビ塾塾長、福田フクスケである!

 佐村河内、小保方さん、女性蔑視ヤジの鈴木都議と、今年は記者会見におけるインパクトキャラの当たり年だが、そんな彼らもかすむほどの爪痕を残したのが、兵庫県議の野々村竜太郎だ。その異常な号泣っぷりは、まさに“真打ち登場”といった貫禄すらあった。

 こういう記者会見というのは、疑惑の真偽にかかわらず、衆人環視のもとで醜態をさらすことで世間様に溜飲を下げてもらう“私刑(リンチ)”の役割でしかないわけだが、ワシが今回感じたのは、こういうとき、テレビというメディアはもう力を持たないんだな……という郷愁だった。だって、彼をネタコンテンツとして消費する速度もクオリティも、ネットのほうが格段にえげつなくておもしろいのだ。

 そりゃそうだ。ネットでは、彼をどんなにバカにしたり笑い者にしたりする合成画像やMAD動画が作られても、誰も責任を取らなくていい。批評性やモラルも問われない。『めちゃイケ』が、小保方さん会見のパロディ企画を“放送自粛”する必要があったのとは対照的だ。大衆の悪趣味で下世話な欲望を満たすツールとして、テレビはもうネットにかなわないのだ。

 会見の2日後の『バイキング』では、アンガールズ田中が彼のモノマネをしていた。すごく似ていたし笑ったけれど、「これがテレビでできる限界だな」とも思った。だったら、同じ方向性で勝負しても意味がない。野々村県議を嘲笑する大衆の悪意そのものを批評するような笑いを、テレビには提示してほしい。案外、内村光良率いるNHKのコント番組『LIFE!』あたりがその役割を担ってくれるんじゃないかと期待しているのだが、どうだろうか。

◆今月の名言

「そういう問題ィヨッホー! 解決ジタイガダメニ! 俺ハネェ! グフッハアーーー!!」(アンガールズ田中)

『バイキング』2014年7月3日(木)OA(フジテレビ系)

「この人、イジっちゃいけない種類の人なんじゃ……」と腫れ物にさわるような扱い。そんななかアンガールズ田中によるモノマネをぶっこんだのは向こう見ずな『バイキング』ならではだった。

(初出:学研「GetNavi」2014年9月号)

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【2023年の追記】

当時、ネットはともかく今後テレビで「野々村竜太郎的な人」をあからさまにイジることはもうできないだろうな、と思っていたのですが、この3年後、「このハゲーーー!」「ちーーがーーうーーだーーろーー!」という明らかに精神状態に何らかのケアが必要な人の恫喝音声を、テレビは何度も何度もこすって、やっぱりのびのびとイジり倒していました。

あの件は、パワハラ・モラハラという絶対悪を糾弾する大義名分があったからなおさら報道が過熱したのだと思います。「大手を振って叩いてもいい対象」が相手なら、私たちは「正気を失った人」をイジりたくてウズウズしてしまう残酷さをあらかじめ備えているのだ、ということを肝に銘じるべきでしょう。

しかし今、世の中はもっと深刻なことになっていると言わざるを得ません。NHK党や、へずまりゅう、あるいは煉獄コロアキや暇空茜のような人たちが、正当な手続きを経て表舞台で声をあげ続けてしまえる状況があります。あんなの、本来ならメディアがまともに取り合う必要などなく、それこそイジったりツッコんだりしておしまいにすべき人たちだったと思うのですが。

野々村竜太郎や豊田真由子なんかよりも、よっぽど正気を失った人たちをキャンセルできない昨今の社会が、静かに確実に狂ってきている気がして怖いのです、私は。

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