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直球フェミニズム映画と変てこカルトムービーの両立ーー映画『バービー』評

この記事は、福田フクスケのX(旧Twitter)アカウント(@f_fukusuke)での連続投稿をまとめて、若干の加筆修正を加えたものです

悪ふざけに満ちたカルトムービー

映画『バービー』(Barbie)を見た。直球のフェミニズム映画だけど、想像よりもかなり批評的でブラックで悪ふざけに満ちたカルトムービー。皮肉の効いた自己言及、さまざまな映画パロディ、あえてのチープさを狙うなど、親近感のあるサブカルノリに小気味よさと気恥ずかしさを同時に感じる映画だった。

話の構造としては、バービーの生みの親ルースと、グロリア&サーシャ母娘の3世代の女性がそれぞれフェミニズムの歴史をなぞっている。当時は女性の解放だったものが、時代が進むと資本主義に回収されたり、また新たな抑圧やステレオタイプの押し付けを生み出してしまう流れが寓話として描かれていて、これをマテル社公認でやってしまえるのが流石だなと思う。

ミラーリングとしての「女子の理想郷」

また、バービーランドが決して最初から理想のユートピアではなく、現実世界の男女をミラーリングしたある種の皮肉として描かれているのも重要なポイント。

「女の子は何者にでもなれる」とエンパワメントされ、多様性に溢れたバービーたちが活躍するバービーランドで、彼女たちを喜ばせるイケメンマッチョに画一化された添え物としての「ただのケン」たちは、現実の男性社会における女性の立場をミラーリングしているわけで。

しかし、「何者かにならなければならない」というのもまた抑圧であり、私たちは「ただのバービー」「ただのケン」として尊重されていいのだ、という結末によって、「I'm just Ken.」の意味がポジティブに反転するのが見事なオチの付け方だった。

マチズモは女性にとっても甘い誘惑である

現実の人間世界でマチズモに感化されたケンは、バービーランドに家父長制を敷いてケンダム(ケンの王国)を築こうとするが、このときバービーたちが「強制的に無理やり」ではなく「みずから進んで」男を喜ばせる従属的な役割に転じていく描写が、個人的にはなるほどなあ…と唸ったところ。

マチズモや家父長制は、女性がみずから進んでスポイルされに行ってしまいたくなるような甘い誘惑でもあり、だからこそ厄介な洗脳システムであることを示した秀逸な描き方だったと思う。

見たいように見れてしまう意地悪な映画

アンチフェミで有名な人が、この映画を「フェミニズム映画の皮を被ったアンチフェミ映画」「女がバカにされてるミソジニー映画なのに、気づかず絶賛してるフェミニストが多いのが滑稽」みたいなことを言ってたけど、それはこの映画を近視眼的にしか見てないという印象を受けた。

そもそもこの映画は、決してフェミニズムを最初から完璧なものとして手放しで絶賛しておらず、フェミニズムが時代の変化とともに反省と自己批評と修正を繰り返してアップデートされてきたものであることを、皮肉や諧謔を使いながら描いている作品だ。

そのあたりの複雑性やアイロニーに耐えられずに、最初から党派性ありきで見てしまうと、この映画はフェミニズムを批判している(だけ)にも見えるんだな。そういう意味では、見る人のフェミニズム観、マチズモ観、ジェンダー観の解像度に応じて、自分が見たいように見ることができてしまう、ちょっと意地悪な映画でもあると思った。

ラストシーンは「産む性」への回帰を象徴していない

ちなみに、人間に生まれ変わったバービーが婦人科を受診する、というラストシーンの解釈だけど、あれは必ずしも妊娠・出産を意味しているのではなく、文字通り「人形」という客体から、「生身の女性」という主体としての身体性を取り戻すことの象徴だと考えるのが妥当だと思う。

ただ、フェミニズムは突き詰めると反出生主義に行きつかざるを得ないのではないか、と私は思っていて、そういう意味では、あのラストシーンは製作者の本来の意図を超えて、「フェミニズムと出生の肯定は両立/超克できるのか」という難しい問いを投げかけるようなメッセージを図らずも発してしまっていたな、という印象を抱いている。

日本に作って欲しかった

ただ、この映画、本当は結構なカルトムービーなのに、万人受けする必見の映画、みたいに過大評価されすぎてるなとは思った。

バービーランドをあえてチープに戯画化して描くノリは日本のサブカル的なテイストを感じるし、男女逆転のミラーリングされた世界は、よしながふみの『大奥』や、『ヒヤマケンタロウの妊娠』なんかに通じる発想でもある。だからこれって、日本がもっと頑張れば『クレヨンしんちゃん』とかでもじゅうぶん扱えたテーマと内容だったんじゃないかと思ってしまうんだよな。

でもあれか、「リカちゃん人形」とか「ジェニー」でここまでやる胆力は、タカラトミーにはなさそうだから、やっぱり無理だったか。


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