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手紙

過去のわたしへ

あなたは物心ついたときから短気でしたね。
それは今も変わっていません。

いじめられていたあのときは、萎縮していたのか、心を凍らせていたのか、怒ることはありませんでした。
あなたが一番キレるべきはあの時点でした。

いじめから物理的に逃れてからも、精神的には囚われたままでしたね。

復讐したい。けれど出来なかった。
命を奪いたくてしょうがなくて、でもそんなわけにはいかない。

あなたは短気で、長期戦が苦手。おまけに若くて血の気が多かった。読むコンテンツも血生臭いものに偏りすぎでした。
だから、凶器を手にすることしか思いつかなかった。

あのときあなたが手に取るべきだったのは、
「言葉」という武器でした。

直接ぶつけたって良い。
それができないなら、話を広めてやればよかったんです。
コミュ症で友だちの少ないあなたでしたが、教室の真ん中で「あいつにいじめられてた!」と叫べば40人くらいには伝わったんです。

信じない人もいるでしょう。
あなたが責められることもあり得るでしょう。
けれど、疑惑のタネを残すことはできたと思います。それで奴らから離れる友だちが一人でもいたなら上等だったと思います。

もしあなたを信じてくれる人がいたら、助けになってくれたかもしれません。
復讐に巻き込めとは言いません。
ただ話を聞いてもらえば良かった。

ある友人は、あなたをいじめたやつと友だちだった。もし話せば彼女はとても困ったでしょう。それでもあなたを嘘つきと決めつけるような子ではなかったはずです。

あなたには数は少ないけれど、素敵な友だちがいました。話してもよかったのに、話せなかった。
黙っていじめられていた理由はわからない。けれどその後も隠し続けた気持ちなら想像できます。

いじめられた自分を恥じていたんじゃないかな。
いじめを受けるような自分は駄目なやつだ。
抵抗できなかった自分は駄目なやつだ。
いじめを受けていた自分は、奴らより下の存在なのではないか。

なにより、奴らに媚びて、友だちごっこに付き合って、あまつさえ他の人を犠牲にしたとあっては。
そんな自分の汚さごと、さらすことはできなかったのでしょう。

あなたは弱かった。愚かだった。
だから動けなかったんでしょう。

いま、わたしは人の道を外れた行いをしていますが、今の自分を誇れます。他の人がどれだけわたしを否定しても、わたし自身だけは肯定できるくらい。

あなたは自身のなさや罪悪感や、あるいは自暴自棄で、そのあとの人生をめちゃくちゃにしてしまいました。
正直、もう生きてる意味もあんまりない。
それでも進むと決めたので。

あなたはそこで泣いていてください。好きなだけ。
わたしが頑張るから。あいつらを打ちのめして、苦しめて、後悔させる。
今のわたしが、きっと過去のわたしを肯定できるようになるから。

泣くだけ泣いたらきっと眠くなるでしょう。眠っていてください。今は起こせないから。
もう少しだけ待っていてください。

過去のわたしへ、あるいはわたしの思い出せない記憶へ。

「復讐ちゃん」より

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