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復讐できなかった相手(父のはなし)

今年、父が死んだ。

ひどい父だった。
自分のための浪費は好きなだけ行うのに、家族のために何かすることを渋る。

車がないとできない仕事なのに、免許停止になったり、死ぬ間際まで交通違反を続けていたり。
止めようとしたけれど、わたしの言葉なんて笑い飛ばされるだけだった。

そしてわたしはそんな父の給料で暮らしていた。
恥じるしかない。

母は父が大嫌いだった。
でも私としては「嫌い」なんて個人の感情で済ませてほしくはなかった。

あの父がやっていたのは精神的DVだったと思う。
家計から勝手に大金を使うところなど見ると、経済的DVでもあったと思う。

母は父をひどく嫌いながらも、抵抗も離婚も諦めていた。浪費はあるものの、並か並より少なめ程度の稼ぎが父にはあった。父と別れれば、パート勤めの母の生活が破綻するのは目に見えていたからだろう。
母がひとりで祖父と祖母、そして精神を壊して動けなかったわたしを養うのは不可能だった。

これもわたしの罪だ。自分の都合で家を出て、5年以上も帰らず、挙げ句の果てに抜け殻になって帰ってきた。

わたし

父以外の家族は好きだったが、この土地が嫌いだった。だから家を出ることは昔から決めていた。
ここには自由がない。精神的にもそうだが、物理的な面も辛かった。
買い物も就職も車がないと話にならないど田舎だ。

何より、ここには嫌な思い出がある。
もちろん小学校時代のいじめのことだ。
耐えられない記憶のフラッシュバック。
この土地を離れることで、100%といかないまでも心が楽になったのは確かだ。

昔から父のことは「苦手」だった。基本的に攻撃的で人を傷つける言葉を多用する人だった。
帰ってきてから、大人になった視点で父を見た。
父のことは「好き」「嫌い」とかいう次元で見られなくなった。
「軽蔑」。それ以外の感情が湧かなくなった。

精神をいくらか回復したわたしは、とにかくお金が欲しかった。たくさん給料がもらえれば、母と祖父と祖母を養えるくらい稼げれば、父と離れられるかもしれない。
しかし、その目標には遥かに届かないまま、わたしはまた精神を壊した。役立たずだ。

結局、わたしがなにもできないまま、父は急死した。今の時代にしては少し若かったかもしれない。

一生のお願い

父の葬儀で「親戚」やら「同僚」やら「友人」やらが、ひどく悲しそうにしていた。
ああ、あいつは意外に外ヅラが良かったのだなと思った。
他に思ったことは特にない。あいつの評価が思ったより高そうなことが歯がゆくはあったが。

悲しそうな表情をしない。事務的に、やるべきことだけ済ませる。それがわたしにできた唯一の抵抗だ。母は何よりも「普通」であることを望む人だから、葬式をぶち壊すなんてやりたくても出来なかった。

父が倒れたとき、しばらくして病院から呼び出しがあったとき、わたしの願いはシンプルだった。
「どうか今、死んでくれ」
父は、わたしの最後の願いだけは叶えてくれたらしい。

できなかった復讐

最近、祖母に聞いた。
わたしへのいじめを見かねて、学童保育の先生が連絡をくれたことがあった。
祖母は、いじめ相手の祖母と親しかったので、すぐに立ち上がって奴の家へ向かおうとした。

それを止めたのは父だったという。
理由はよくわからない。

やっぱり、自分の手で殺しておきたかったな。
そう思った。
わたしはそういう意味で、一度復讐に失敗している。

感情が抑えきれなくて、母にこぼした。
父は自分の手で殺したかった、と。
母は笑いながら「そんなことしたら、あんたの人生終わりだよ」と言った。

わたしの人生なんて正直どうでも良いのだけれど、
わたしが犯罪者になれば母たちの人生も台無しにしたかもしれない。だから、この復讐は成功しなくて良かったのだと思う。

それでもロクに抵抗できなかったことはやっぱり恥だ。いじめに対して一切の抵抗ができなかった小学生時代からちっとも成長していなかった。

復讐ちゃん

こうしてわたしは「復讐ちゃん」になった。
復讐できないまま、相手が死ぬこと。それはひどい後悔を生む。

父には何一つしっぺ返しを食らわせられなかったけど、あいつらには苦しんでもらおう。

ご覧の通り、わたしの復讐には正義なんてない。
ただ、自分のためだけに復讐を決めた。

使い古された言い回しに「幸せになることが一番の復讐」なんてのがあるけど、それは不完全な言葉だと思う。個人差はあるだろうけど、わたしにとっては足りない。

わたしの幸せは、あいつらを懲らしめて苦しめた先にある。逆にいえば、復讐を終えないと、わたしは幸せを目指すスタートラインにも立てない。

復讐の終わりはどこだろう。
一生許すことはないけれど、わたしが満足する地点というのはあるだろう。
あいつらにトラウマを刻む、というのがnoteでも何度か書いたわたしの目標だ。

一生、わたしの影に怯えて暮らすようになれば良い。
その上でわたしが、あいつらを思い出さないくらいに幸せになれたなら、それも復讐と呼んでも良いかもしれない。

とはいえ、わたしは「復讐」という悪事を行なっている。報いなら受ける。反撃がくるのなんて当たり前に覚悟している。

そもそも幸せなんかに興味はない。わたしの人生に残された最後の自由が「復讐」だと思っている。

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