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「快適」と「居心地」について

住環境設計アトリエオカムラ主宰、岡村建築士に「快適」と「居心地の良い」をテーマにお話を伺いました。 (2022年3月7日 インタビュー)

「快適」を目指していたら「快適」にはならない

「これが快適です」というのは多分ないんですよ。快適さって人によって違うと思うんです。同じ家でもAという人には快適だけど、Bという人は何も感じないってことは良くあります。

住みやすいとか暮らしやすいとか便利とかはその人によって違う、十人十色です。それぞれの建物、家全部違うんです。だから家を作る時は、その人の暮らし方とか住み方みたいなもの、どんな生き方をするのかを聞くことから始めていきます。

そもそも初めから「これが快適です」って分かる人はいないと思うんです。「快適な家お願いします」と言われてもそれは出来ないですね。快適を目指してやっていたら快適にはならないんですよ。

賃貸はあまり好きじゃない

一番厄介なのが賃貸物件です。対象が不特定多数ですから、というより今の住宅事情はほとんど最大公約数で建物を作らないといけません。だから個性も何もないんですよ。

賃貸であれば、壁もいじれない何も出来ない、家具でその人の暮らしに合うようにしていくだけなんです。だから、僕はあまり賃貸は好きじゃないんですよね。決められない。

個性のある人が、こんな家に住みたいと言ってもらった方がやりやすいです。


少数派のニーズをターゲットにした方が面白いものができる。

住宅メーカーさんは最大公約数を狙って住宅を建てますが、それでも最大公約数でカバーできるニーズは大体8割くらいで、残りの2割はそれじゃあ気に入らない人達です。

逆にその気に入らない人達をターゲットにとんがったモノを作るのは面白いかなとは思いますよ。なぜなら2割の方が新しくて面白いからそれがどんどん膨らんできいくと、それが多数になって世の中が変わるという流れになりますからね。

今、住宅メーカーさんが最大公約数を狙って作っている住宅というのは10年も20年も前に我々が色々考えたやつでもあるんです。


古い建物は居心地が悪かったら残っていない

居心地の良い建物を作るとして、風通しとか日当たりとか植栽を植えるスペースとかを考えるとある程度、敷地に余裕がないと難しいですよね。コストを優先していたら出来ないですよ。

だから、最近は同じような四角い建物ばかりできると思うんです。どんどん建築効率を追求していったらシンプルな方が経済性も上がりますから。

一方で、なぜ今古い建物が求められているのか。煉瓦作りの家とか結局、ビニールクロスではない本物の煉瓦を使っているという安心感のようなものがあってそこに居心地を感じているのでしょうね。だから今でも残っているんでしょう。居心地が悪かったら残ってないでしょうから。


「安全」が第一、その次が「快適」、「デザイン」は一番最後。

でも、建物を作る上で、施主に対して一番説得力があるのは「快適」よりも「安全」です。というより「安全」が大前提です。

地球の上で生活している限り一番重要です。雨が降っても濡れず、風が吹いても倒れない、これがまず大前提です。

「安全」の次が「快適」そして最後にあるのが「デザイン」です。

最近の戸建はみんなデザインだけを重視してマンションみたいに四角くて窓に庇すらない家ばかりです。そういう家は雨が降ったら窓が開けられない、エアコンがあるからいいとはいうけど、電気が止まったらどうするのか、それが快適な家かというとそうじゃないですよね。

そこにいくと古民家は、何百年と風が吹いて雨が降ってという環境に耐えれるよう作ってあるわけじゃないですか、庇を深くして、エアコンのない時代の建物の方がヒントが沢山あります。

災害に強い家と考えると、四角い家は壊れないかもしれないけど、電気が止まった時などの非常事態には困りますよね。その点古民家の場合は、窓を大きくして風通しを良くする。天井高を高くすれば、暑い空気を上に逃すようになり空気の流れもできるので、夏にエアコンがなくても快適性を保つことができるんです。冬は火を炊けば暖かくなりますから問題ありません。

最近の古民家のリノベは2階を壊して、吹き抜けを作っているんですよ。1階は土間にして囲炉裏を作る。基本エアコンはつけなくても快適に暮らせるように考えながら作っています。

人間は本来、自然の素材の中で暮らしてきた

快適性は「永遠の課題」ですよね、人によって全然違いますから。私の仕事は、個人からの住宅やお店などの依頼がほとんどなので、その人がどのような快適性を求めているかは、その人と話していると見えてきます。

でも「これ快適です」ってあんまり聞かないですね。「居心地がいい」とか「落ち着く」は聞きますけど何が落ち着くんでしょう。

まあできる限り自然の素材を使って部屋作りをしようとは心がけています。それは、もともと人間は自然の材料(木や土など)の中で暮らしてきたわけですから、そういう環境を改めて作ると人は大体落ち着くはずです。

ビニールクロスや床材を選ぶ時に、木目のビニールクロスやフローリングを選ぶでしょう。それは見た目で選んでいますが、木を壁や床に使う本来の目的は、断熱や調湿効果などの機能性を重要視する部分の方が大きいんです。

どうして床を木目のプリントタイルにしたり、木目や煉瓦のビニールクロス貼ったりするんですかね。メーカーはいかにして自然素材に見せるかにものすごく力を注いでいますよね。それは、やっぱりそれがフェイクであったとしても生活者は落ち着くんでしょうね。でも悲しいかな、求めている機能はありませんけどね。

一番理解できないのが、コンクリート打ちっぱなし風のビニールクロスですね。あれは、何を求めているのでしょうか。まあ、つまるところ、リビングをカフェのような空間にしたいんでしょう。


「居心地が良い」と「快適」は意味が違う

生活者は、「安心」「安全」というのは当たり前だと思っています。だからデザインの方にばかり目がいく、でも(生活者は)健康被害も含めて本当に「安心」「安全」なのかをチェックしていないですよね。例えばビニールクロスに使っているケミカル(接着剤など)は本当に身体に害はないのか、疑問に思っている人はあまりいないんじゃないでしょうか。

もしかすると「居心地が良い」と「快適」は意味が違うのかもしれませんね。

「快適」とは人工的に作られたもののような気がします。夏は暑い、冬は寒いをなくそうとすることがいわゆる「快適」であると。一方で「居心地が良い」は人間本来感じる本質的なものでしょうね。

「快適」と「居心地の良い」に線を引くとしたらその辺りかもしれません。

「快適」という便利な言葉

産業革命以降、産業の発展と共に人間の生活はどんどん「楽」に「便利」なってきました。いってみれば「楽」や「便利」を追求することが「快適」につながるのかもしれません。

でも現在は「楽」や「便利」が行きすぎて様々な問題が発生しています。そんな中で目指すべき「居心地の良さ」というのがとてもわかりにくくなってきています。

だから僕はどこで線を引くかというと自然素材を使うか、人工的な素材を使うかで判断するしかないと思っているんです。

自然素材を使った家は、健康的安全性は間違いないわけです、なぜなら人は何万年も自然素材の中で暮らしてきたわけですから。一方で人工素材のモノは100年、200年くらいのものでしょう、これからどのような健康被害を受けるかわからないです。

でもそれをいうとモノは売れないので「快適」という便利な言葉を使って購買を促進しているわけですね。

「快適」を求めれば求めるほど健康は失われる

だから僕は、それを見直しませんかと言っているんです。

人間は本来、健康を保つために免疫力が備わっているんです。それなのに夏は涼しく、冬は暖かい快適なところで生活しているから免疫力がガタ落ちですよね。ちょっと寒かったら風邪をひいて、暑かったら熱中症になったりするわけじゃないですか。それは免疫力が低下してしまったからだと思います。その点自然の中で暮らしている人は丈夫ですよ。

快適を求めれば求めるほど健康は阻害していくというなんとも皮肉なものです。

おしまい


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