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ネモフィラが愛しい理由。

本記事は「コーチたちのアドベントカレンダー 2023冬」という企画に参加し執筆しました。本企画は、リレー形式で12月の約3週間、お互いに贈り合う「言葉」を元に記事を書いていく企画です。私は「働くことと働かないこと」という言葉を受け取り、働くある女性を主人公とするショートストーリーの形で書いてみました。


第1章

「理子(りこ)って、やっぱり名前負けしてるね笑」

夜11時、同期で親友の由美子は「あの堅物役員には数字しか通用しないよ」とレッドブルを流し込みながら、私のプレゼン原稿を丁寧に見直してくれている。

私は、半導体製造装置を作る会社で、入社以来、経営戦略部で働いている。大学の時にマネージャーとして入っていたロボット研究会で名物コンビだった[ナナリューズ]の椿(つばき)先輩と亮太郎(りょうたろう)先輩もこの会社に入っている(2人とも大学7年留年していたのでナナリューズと呼ばれていた笑。)先輩のモノづくりへの夢を会社に入っても熱く語る姿を見て、先輩の情熱をまた支えたいっていう想いで、この会社に入った。

だけど、私の机には、いかにコスト5%下げるか、いかに利益率上げるか、いかに右肩上がりの成長を続けるかの冷たい熱で溢れる。考えるのは、味気ない数字ばかり、トップからの冷たい声ばかり。モノづくりの熱い熱がちっとも感じることができない。こんな冷たい世界で働くのが嫌で、日曜日の夜はいつもうなされる。。。

だけど、働かないことも怖い。。。働かなければいけない感じがするし、3ヶ月前の兄の顔が浮かぶ。あの日、兄は微笑みながら、「髪の毛だけは成長早いって上司に褒められた」と言いながら、キッチンバサミで髪を切った。働かなくなることへの怖さと感じたくない兄への感情で心が溢れてしまう。

働くのも嫌だけど、働かないのも怖い。。。わがままの感情を持ちつつも、いつか先輩のあの姿が見える世界線に行ければと思い、目の前の仕事を一生懸命に取り組んだ。その結果、一緒にやってきた由美子と共に同期で最速の主任昇格をして、最初の仕事だった次年度の技術分野の成長戦略プレゼンを作る今。

第2章

翌日9時、無事にプレゼンを終えることができた。役員たちも「この調子で会社をどんどん成長させていこう」と熱意を語り、上司にも「良いプレゼンだったよ!この調子で課長昇格を目指してスキル伸ばしていこう!」と言われた。

ザワザワした熱気に溢れる中、技術部役員の付き添いで来ていた[ナナリューズ]の椿(つばき)先輩がいた。私は「あ、つばき先輩!」と声をかけた。

しかし、、、先輩は、頬が鎖で縛られた表情でこう言った。。。

「理子って名前、似合ってきたね。。。」

第3章

翌日、人生で初めて風邪と嘘ついて、ズル休みした。自分でも訳がわからないけど、身体が言うこと聞いてくれなくてどうしても起き上がれず、そのまま今に至る。

ピロリーン♪

「理子、頼む🙇 推しアイドルのライブに一緒に来てほしい😭 女性と一緒に行くと、チェキ5回分無料なるの😍 今月、金欠だから頼む🥺」

[ナナリューズ]の亮太郎(りょうたろう)先輩からのLINE。

ピロリーン♪

「ズル休みした罰として、りょうたろう先輩の推し活に付き合え!親友命令🥰」

由美子からLINE。

第4章

「理子〜、ありがとう!仕事押した!遅れる!」

内山ちゃんという好きなメンバーの熱苦しい話をしながら走る先輩に急かされる。渋谷モディを勢いよく通り過ぎ、パルコの向かいにある、変な形した建物に来た。

会場は真っ暗で、ざわざわとした熱気に溢れてる中、りょうたろう先輩に「理子は特等席に行け!俺は推し友と騒ぐ!」と言われ、舞台の左側にある女性専用エリアに行った。女性は私と数名いるだけ。

音楽が始まった。

深い海のような光が舞台の中央に照らされる。

5人のアイドルは、優艶(ゆうえん)なゴシック風のドレスをまとい、お互いの身を預けて、コロコロ転がる真珠のようにユラユラなびいている。

深淵の中のクジラの声のような音楽は、私のアタマに鎖をつけ、私の内側から5人の彼女たちが溢れ出してくる。

消えてったかおりは、街角に面影を残してたの

RAY楽曲 ネモフィラの歌詞より引用

夢に向かって真っ直ぐ見る、透明感ある熱い目をするメンバー。彼女の目は私が好きな目だ。彼女に見てほしいって何故か思って、想いを必死に念じているけど、彼女は、落ち葉が落ちるように、私を見ずに真っ直ぐに熱く歌う。

昨日と明日の 隙間をただ空回るフィルム

その熱い目をするメンバーのパートナーのような同じ白いドレスのメンバー。彼女の目は、日曜日の夜の私の目。彼女を励ましたいって何故か思って、想いを必死に念じているけど、彼女は、光がまぶしいように、私を見ずに真っ直ぐに夜を歌う。

知らない言葉で 「ため息」と何度もつぶやいた

そんな彼女が、黒い影に満ちた瞳を持つメンバーの手を包みこむ。私はなぜかその二人の手を離したくて仕方がない。どんなに願っても、彼女たちは手を繋ぎ続けて、冬の風の冷たさのようにこちらを見る。

わたしは 雲間になにを見てる

1ミリの狂いのない繊細な黒髪を持つメンバーは、怖く強い目で私を見ている。なんか昨日の私みたいな目。そして真夏の夜月のような白黒ヘアのメンバーは、不安げな目で私を見ている。

私のアタマの鎖をくぐり抜けて、モヤモヤとした深い煙がたちこもる。私は怖くて怖くて、彼女たちの目を見ないように必死に目をそらす。

それでも私の視界に、彼女たちの目が飛ぶこむ。

訳が分からず、私の視界は、黒い雫(しずく)で溢れる。

5人のメンバーは、明日のデートのために美容院に行った時に限って髪の毛を台無しにする雨の湿気のように、ヒラヒラと私の視界に彼女たちの目を映す。

すると、

音楽は一瞬、

静寂を包む。

そして、

黒い雫(しずく)に光が刺すように、

音楽がまた鳴り注いだ。

もうちょっと あとちょっと
この夢にふたりは漂ってたい

貝の中から咲く真珠のように、
5人のメンバーは咲き踊る。

手をとって 手をとって
まばゆいネモフィラの丘のぼる

道端に咲く花びらのように、
5人のメンバーは、手を繋いで前に歌う。

私は涙を流した。

どんなに大事な予定があっても、
どんなにテルテル坊主で願っても、
梅雨の雨が降るときは降るように涙を流した。

そんな雨の中で歌う彼女たちは、
温かくて愛おしくて美しかった。

第5章

りょうたろう先輩がライブ会場から出ると、私は笑顔でこう言った。

「先輩!梅雨って降るときは雨降るんですね!」

「笑笑 な、急に何言ってるの!?
 理子って、やっぱり名前負けしてるね笑」

終わり


改めて言うと、本記事は「コーチたちのアドベントカレンダー 2023冬」という企画に参加し執筆しました。本企画は、リレー形式で12月の約3週間、お互いに贈り合う「言葉」を元に記事を書いていく企画です。

この企画で受け取った言葉は「働くことと働かないこと」という言葉でした。

受け取った最初の印象としては、どちらの言葉も居心地の悪い感覚でした。あるがままを否定されるような、成長を前提する人工的な感じでザワザワしました。

こういうザワザワって心地よくない。だから押し殺そうとしたり、避けようとしたくなりませんでしょうか?

でも多分避けれない、自分ではコントロールできない感覚。

この感覚をゆっくり味わった時に、感情って自然(nature)かな?って思うようになりました。感情という自然(nature)をじっくり味わうと、なんか愛おして、美しいみたいな感覚になり、ちょうどリピートしていたアイドルソングとリンクしたので本ショートストーリーを書いてみました。

何か受け取ってくれるものあれば嬉しいです。

(久しくこういう文章書けてなくてモヤモヤしてたけど、今回きっかけをもらって書くことができてとても嬉しかったです😁ありがとうございます🍀)


参照

RAYというアイドルさんの楽曲「ネモフィラ」を参照し、歌詞を文中で引用しました。とても良いアイドルソングなので聴いてみてください🎵


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