見出し画像

事務の冨菜さんの「ありがとうね」

IT系で働き2年前に主任になった28歳女性の桜(さくら)さんが親しい友人にだけ公開した、2024年6月1日のブログ記事。

「こんな簡単なことがなんでできないの⁉︎」

また、事務の冨菜(とみな)さんに向かって、こんなふうに言ってしまった。
二年前にこの部署に異動してから、いつもこんな調子なの。

後から後悔するってわかっているのに、目の前に迫る納期がいつも怖くて、作業してくれている人に向かって感情をぶつけてしまう。まるで濡れた布をぎゅっと拳を押すように、私の感情が口から溢れ出してしまっちゃう。。。

冨菜さんは優しいから、後になって私が「ごめんなさい」と言っても、いつも優しく受け取ってくれる。本当はこんなこと言いたくないのに、自分の頭の中で、硬くて想い感情がふわっと広がってしまい、つい言葉が飛び出して。

こんな自分が嫌。鏡を見るのも嫌になる。朝、洗顔する時も、自分の瞳は見られず、うつむきながら顔を洗い、逃げるようにパックする。

ねぇ、みんなもこんなことってあるのかな?

何かに不安で、何かにモヤモヤして、

だからもっと不安になって、もっとモヤモヤすることって。

でね、そんな時、前の部署の田中課長から連絡が来たの。

「緊急連絡。10歳の娘の誕生日プレゼントがわからない。プレゼント探しを手伝って欲しい」と。

田中課長は、前の部署でとてもお世話になった上司。こんなふうに課長っぽくない感じがなんだかかっこいいなといつも思ってる。その日、田中課長の同期の冨菜さんが「今日の分はもうやっておくから、どうしようもない田中のやつに付き合ってね」と背中を押されてね、

娘さんはK-Popが好きらしく、そこに何かあるだろうと課長が言っていたので、 早めに終業して、4時頃に名古屋駅近くの近鉄パッセのタワレコに来た。

そしたらね、田中課長は「ごめん、娘の誕生日なんて嘘で、実は今日は俺が好きなアイドルのリリースイベントなんだ。一緒に聴いてみて欲しい。」と謎の提案をしてきたの笑

田中課長は、ペンライトを持って、応援団長のように立っていた。BGMのような音楽が静かに流れ、まだ青い空が残るか残らないかの時間帯で、人々はそわそわしていた。

そんな時、前にオススメしたあの曲に出逢ったの。

そのアイドルの歌は、歌詞の内容はよくわかってないけど、なんかあたたかくて、なんか自分のままでいいんだって感じた。不安やモヤモヤは、不安やモヤモヤでしかなくて、自分には、ありのままの自分という自分がいる、それでいいんだって。

そのアイドルの踊りを完璧に踊りきる田中課長の背中を見ながら、私は「ありのままの自分ってなんだろう?」と自分に問いかけてね、

好きになれる自分はいるのかな?

ありのままの自分で好きになれるのかな?

どんな自分がありのままの自分なんだろう?

そのアイドルの音楽は、私にそんなふうに問いかけてくるように感じた。

そんなふうに問いかけてみると、
なぜか冨菜さんの「ありがとうね」という言葉が浮かんだ。

冨菜さんは毎日「ありがとうね」と言ってくれていた。私が背中を丸めて席を立つ瞬間、毎日言ってくれていたのを思い出した。

好きな自分はまだわからないかもしれない。

ありのままの自分もわからないかもしれない。

でも、今ちゃんと言えることは、

「ありがとうね」という言葉が

とても嬉しいということ。

不安やモヤモヤのいる場所ではなく、

遠くて近い場所から

「ありがとうね」を聴こえてきて、

嬉しいと感じている気がする。

あぁ、もう言葉が出てこなくて、言葉がわからない。

これ以上書くのはやめるけれど、

明日、冨菜さんの「ありがとうね」に出会えたら、

私も「ありがとうね」とぎゅっと言いたいと思う。

そういう自分がいる、

その自分に少しだけ好きかもしれないと思えている気がする。

この記事が参加している募集

いただいたサポートは、 頑張る誰かの応援のために使います❗️