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僕、ベタ日記⑦お留守番の時間

この日は、何だかみんなの様子がおかしかったんだ。『モア、行ってきまーす』とドアを出ていく時、ママは何度も僕の方に目を向けた。何でかな?その目はどこか不安そうに見えたんだ。

いつもなら、しばらくすると『モア、ただいまー』って声がするのに、いつまで待ってもその声は聞こえなくて、僕ね、だんだん寂しくなっちゃった。

お腹空いたよー。暗いよー。寂しいよー。何度も、水槽の中から皆の姿を探したり、耳を澄ませてみたよ。でも、だあれも居ないみたい。僕はしばらく考えてみた。『みんな、僕を置いてどこかへ行っちゃったんだ』『もう、戻っては来ないかもしれない』

そう思った時、僕の目から自然と涙がこぼれたんだ。でもね、僕たち魚はいっぱい泣いても、涙は水に流れてしまうから、誰にも気付いてはもらえない。お店が閉まると、毎晩、こっそり泣いていたベタの女の子のことを思い出した。白色で皆の人気者だった可愛いあの子のことを。でもね、どんなに声を出して泣いても、外の誰にもその声は届かないし、流れる涙に気付く人なんて誰一人いないってことを僕らは知ってしまったんだ。

泣きつかれた僕は、力を失ってリーフに横たわった。もしも、このままみんなに会えなかったら、僕はどうなるのかな?独りぼっちは寂しいし、生きていく自信なんて、ぜんぜんないよ。

どれ位、時間が経ったんだろう?僕はあれから、リーフに身をゆだねたまま、ほとんど動かなかった。このまま、ずっと…。怖いことが頭に浮かんでくるたびに、僕はリーフの奥へ奥へと潜り込んでいったんだ。

その時だ。ガチャガチャと音がすると、『モアーー!ただいまー』と慌てた様子のママの声がした。続いて娘ちゃんが『ただいま』と言ってくれた。娘ちゃんとパパの目は、キョロキョロと僕の居場所を探している。僕はここだよ!ここにいるよー。

懐かしいこの声。大好きな声。

会いたかったよー。

僕は口をパクパクさせながら、ヒレを忙しく動かして、スイスイと泳いでみせた。『ねぇ、僕を置いて、どこに行ってたの?』

ごはんの時、『りょこうに行ってたんだよ』と娘ちゃんがお話してくれた。りょこう?何それ?たのしそー。それって、僕は一緒に行けないのかな?

僕はふと、毎晩泣いていたあの子が教えてくれた『人魚姫』のお話を思い出したんだ。美しい声と交換に、人間の王子様の隣に立つことを選んだ、足ヒレを持った女の子の物語のことを。ところで、あのお話って、最後はどうなったんだっけ?少し悲しいこの話の最後が、どうかハッピーエンドでありますように…と僕は願った。

お腹もいっぱいになって、すごく安心したら、眠たくなってきちゃった。
今夜はぐっすり眠れるよ。
おやすみ、またねー。

1泊とは言え、モアを置いていくことは、本当にドキドキしました。餌は間隔が空いても大丈夫なのですが、やはり、お留守番中は何があるか分かりませんからね…。特に、停電や事故は怖いです。出かける前に足し水をして、餌もあげて、準備万端にはしましたが、妙に落ち着きませんでした。旅行中も、時々、『モア、大丈夫かな?』『元気かな?』と気にかけたり、帰りは寄り道をせず、早く帰宅できるようにしました。ペットの居る暮らしとは、そういうものです。わずか数センチの魚の存在が、私の中でどれほど大きなものになっているかを改めて、思い知った気がします。帰宅後、目を向けると、すぐに寄ってくるモアの姿を見ると、旅の疲れも一気に吹き飛びましたよ。ホッとして、私もぐっすり眠れそうです。(あっ、これはいつもか・笑)せめて夢の中だけでも、モアと旅してみたいなぁ。一緒にアカプルコなんてどうかな?モア、共に暖かな地にゆこう!

それでは、次回もどうぞお楽しみに。

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