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【試し読み】P・スルクネンほか『ギャンブルの何が問題なのか?』(第1章冒頭)

◎世界初、データが語る世界のギャンブル業界の現状と依存の実態、そして有効な対策の提言◎
ギャンブル業界はこの数十年で、国境を越えたグローバルな営利企業としての側面を強めてきました。また、スロットマシンやパチンコに代表される電子ゲーム機は、よりプレイヤーが「ハマりやすく」なるよう、人間の認知機能に働きかけて射幸性を高める開発が進んでいます。
ところが、こうしたギャンブルの産業規模や依存の実情、そして規制の具体例については、国際的な比較がほとんど行われてきませんでした。本書では、各国で行われてきた調査を11名の科学者が分析し、世界的規模でギャンブル業界の全貌を明らかにしています。
その上で、本書は「ギャンブルを政策によって規制する」ための具体的な方法論を提示しています。ギャンブル依存を減らすために、国や自治体、業界はどのような施策を取るべきか。本書はその効果的な提案を示します。

『ギャンブルの何が問題なのか?--国際比較から見る公共政策アプローチ』を、8月23日に発売します。国や自治体のギャンブル政策の担当者、IR・ギャンブル業界の関係者、ギャンブル依存の対策にかかわる人などにおすすめします。
ここでは試し読みとして、第1章の冒頭を公開します。
続きが気になる方は、ぜひ全国の書店・ウェブストアからお求めください!
書籍の巻頭では、監訳者・久里浜医療センターの樋口進院長が、日本のギャンブル問題の現状と対策についてまとめています。
(本書の詳細はこちら。各種ウェブストアにもアクセスできます)

*本記事は2021年8月23日に発売される『ギャンブルの何が問題なのか?』から該当部分を転載したものです。

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●第1章 はじめに


ギャンブル問題の複雑な性格
 商業的ギャンブルは、20世紀半ば以降、着々と合法化されてきた。今では世界の大部分で、ひとつの産業になっている。これは第二次世界大戦末期の状況に比べると、とてつもない変化である。かつては、政治的課題としてはギャンブルに対する否定的な見方が優勢を占め、ギャンブルはしばしば禁止された。わずかな例外が、教会やスポーツクラブ、慈善団体、市民団体が、活動費の捻出や「善良な目的」のための募金という名目で運営する、小規模な慈善くじ、賭博、宝くじだった。大半のイスラム諸国をはじめとする世界の大部分では、今なおギャンブルの禁止が公的な方針だが、それも急速に変化しつつある。

 ギャンブルとは、偶然の事象への賭けであり、何倍もの価値をつけて戻ってくることもあるが、損をする可能性のほうが高い。だが、今やギャンブルは徐々に政府から公認されつつある。ギャンブル機会の提供は相当な規模の産業になり、経済的利害も大きくなった。また政府は収入源として、また他の潜在的な経済的メリットを持つものとして、ギャンブルに関心を示している。ギャンブルの合法化は、売上の一部を慈善、社会的・文化的活動、スポーツ活動にまわす伝統の一部として、とくに意識されないまま受け入れられてきた(Kingma, 2004)。やがてそれは、ギャンブラー、ギャンブル事業者、公権力、受益者(ギャンブラーが出した資をもとにして、善良な目的のサービスや支援を提供する団体やその他の機関)の大規模な相互依存関係へと発展した。一方、合法的ギャンブルが拡大すると、それによる社会的・心理的弊害も増大した。有害な影響は、ギャンブラー自身にとどまらず、しばしば家族、職場、地域社会にまで及ぶ。だから便益と弊害は簡単には天秤にかけられない。一方にとっては便益、たとえば政府には「自発的な税」であっても、他の当事者には深刻な弊害を生むことがある。ギャンブルにとりつかれ、多くの金や財産を失い、自分だけでなく他人の人生の機会まで台無しにする危険のあるプレイヤーもいる。

 ギャンブルによる弊害を抑え、できれば予防し、公共善に資するために、何らかの規制が必要であるという認識は高まりつつある。問題は、どのような形の規制が、もっともこの目的に資するかである。政策立案者は、経済的な検討事項、消費者の自由、人間の苦しみをよく考慮したうえで、政策の選択肢を比較検討しなければならない。また、どの価値を優先するにしろ、どのようにギャンブル市場を運営しコントロールするかという問題から逃れられない。ギャンブルの実践と問題、規制手段とその効果についての研究は、急速に蓄積しつつあるが、本書では、ギャンブルとギャンブル政策に関する科学的研究が出した答えに焦点を当てる。本書の目的は、政策立案者やその他の利害関係者に、この問題の重大性、解決すべき課題、種々の政策の効果と結果について、情報を提供することである。私たちは行動としてのギャンブル、そして産業としてのギャンブルの複雑さを認識している。ギャンブルには多くのプレイ形態と種類があるだけではなく、政策とビジネスの成果、公共経済、ギャンブルを財源とする多岐に渡る社会的活動をつなぐ、複雑きわまる利害関係があるのである。

 私たちの主な関心は、政府の認可やしばしば監督のもとで実施される組織的な商業活動としてのギャンブルにある。この活動は運まかせのゲーム、つまり賭けを主な形態としている。1950年代なら、ギャンブル政策の本は、闇のスポーツ賭博やポーカーのようなスキルを要するゲームに焦点を当て、詐欺や犯罪を主な問題としていただろう。今日、かつては犯罪だったギャンブルの多くは合法化されている。純然たる運まかせのゲームであるコンピューターギャンブルは、大多数の国で最大の取引高をたたき出し、ほとんどの活動は何らかのかたちで行政に規制されている。違法ギャンブルやギャンブル関連の犯罪は、今なお重大な問題だが、ギャンブルによる問題のほとんどは合法的領域、つまり行政が規制することができ、規制しようとし、現に規制している領域で起きている。だから、今日のギャンブル政策は、多種多様な問題に専門職、機関、行政部門や省庁が関わる多面的な公共問題なのである。

 ギャンブルの第一のもっとも顕著な問題は、過度の浪費である。その影響は、本人と家族、本人の社会的環境にいる人々に及ぶ。こうした経済的問題については、生活相談、福祉サービス、裁判、ギャンブラーズ・アノニマス(ベテランの会員が新会員の当面の経済的問題への対処を手助けする「プレッシャーのないグループミーティング」がある)が対応する。

 第二の問題はギャンブラーの行動で、親密な関係や家族関係をしばしば傷つける。たとえば共有のリソースを賭けで失い、その事実を隠したために信頼が失われたりする。一般に、関係の問題は心理学者、ソーシャルワーカー、結婚・家族カウンセリング機関が対応する。

 ギャンブル問題の第三の領域は犯罪である。問題ギャンブラーが資金を入手するために犯す犯罪、ギャンブル施設周辺での路上犯罪、組織犯罪などのギャンブル規制に違反する犯罪などギャンブルが犯罪を引き起こすことがある。法的問題については、一般に刑事裁判所が対応する。

 第四の問題として、過剰なギャンブルに関連してしばしば生じる健康問題がある。これには医療職や医療機関が対応する。

 ただしギャンブル関連の問題は、これらの項目のどれかに収まりきるようなものではない。ギャンブル関連の問題は、社会・経済的不平等や社会的疎外など、すでに存在する社会的問題を悪化させることがある。また問題ギャンブリングだけでなく、ギャンブル全般が相当な社会的費用を発生させることがある。こうした問題は、個々の関係当局では容易に対処できない。

 ギャンブルの便益は、企業、受益団体、地方公共団体や政府に広く拡散される。ギャンブルの受益者はギャンブル関連の問題が起きる領域には属していないことが、規制の状況をこじらせる。一方、業界は、業界のイメージや事業の成功の足を引っ張る問題を回避したいという関心から、「責任あるギャンブル」の方略と行動規範を構築している。

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