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悲しい桃太郎昔話(短編小説)

 むかしむかしある村に強くて優しくて、正義感あふれる男が住んでいました。

そんな村近くの峠道に人を襲う【妖狗(ようく)】が現れました。

その噂を耳にした男は【妖狗】を退治に行きましたが、優しい男は命まではとらず追い払いました。

今度は村人をたぶらかす【胡喜媚(コキビ)】が現れました。

男は【胡喜媚】も命まではとらず、追い払いました。

それでも村には平安は訪れませんでした。

【狒々(ヒヒ)】の仕業でした。

【狒々】は村人を騙し偽り不安に陥れました。

男はそんな【狒々】を見つけ出し、追い払いました。

平和が訪れた村で祝い事がありました。

男が祝言をあげたのです。

十月十日後可愛い男の子が産まれました。

男に似たとても元気な男の子です。

男の子は村の風習で桃の形の網かごに入れられました。

そんな男の子を網かごごと連れ出した者がいました。

【妖狗】です。

【胡喜媚】が男の妻を騙し【妖狗】が連れ出したのです。

【狒々】のはかりごとでした。

連れ出した男の子を【妖狗】は川に流しました。

生真面目なおじいさんとおばあさんに拾われるように流しました。

どんぶらこ どんぶらこと流れて行きました。


しばかりに山へ向かったおじいさんと別れ、おばあさんが川で洗濯していると川の上流から桃型の網かごが流れてきました。

(おや?桃型の網かごが流れて来たよ!おじいさんに良いお土産になるよ!)


おばあさんは大きな桃籠を拾いあげて、家に持ち帰りました。


 そして、おじいさんとおばあさんが桃型の網かごを開いてみると、なんと中から元気の良い男の赤ちゃんが飛び出してきました。


「これはきっと、神さまが我々にくださったにちがいない」


 子どものいなかったおじいさんとおばあさんは、大喜びです。


 桃型の網かごから生まれた男の子だったので、おじいさんとおばあさんは桃太郎と名付けました。


 桃太郎はスクスク育って、やがて年頃の男の子になりました。

優して強くて正義感の強い男の子です。

男の子の周りにはいつもイヌとキジとサルがいました。

イヌの正体は【妖狗】キジの正体は【胡喜媚】サルの正体は【狒々】でした。

イヌとキジとサルは川の上流には鬼の村があり、悪さばかりしていると桃太郎に教えていました。

 そしてある日、桃太郎がおじいさんとおばあさんに言いました。


「ぼく、鬼の村へ行って、わるい鬼を退治します」


 事情を知らないおじいさんとおばあさんはそんな桃太郎に喜び、道中の食事にときび団子を作って渡しました。

鬼の村へ向かう途中でイヌに出会いました。


「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」


「鬼の村へ鬼退治に行くんだ」


「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」


 イヌはきび団子をもらい、桃太郎のおともになりました。


 そして、こんどはサルに出会いました。


「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」


「鬼の村へ鬼退治に行くんだ」


「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」


 そしてこんどは、キジに出会いました。


「桃太郎さん、どこへ行くのですか?」


「鬼の村へ、鬼退治に行くんだ」


「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」


 こうして、イヌ、サル、キジの仲間を手に入れた桃太郎は、ついに鬼の村へやってきました。

鬼の村では、今年一年で収穫したご馳走や交易で得た宝物をならべて、酒盛り祭りの真っ最中です。

酒に酔い焚き火にあたりみんな顔は真っ赤です。


「赤鬼だ!みんな、ぬかるなよ。それ、かかれ!」

まさか村が襲われるなど鬼たちは思ってもいませんでした。

不意を突かれた鬼たちは酔って身体は動かず、ひとたまりもありません。


 イヌは鬼のおしりにかみつき、サルは鬼のせなかをひっかき、キジはくちばしで鬼の目をつつきました。


 そして桃太郎も、刀をふり回して大あばれです。


 とうとう鬼の親分に斬り付け、息の根を止めることが出来ました。

 桃太郎とニヤニヤ笑うイヌとサルとキジは、鬼から取り上げた宝物を車に積み込みました。

大きな荷車いっぱいです。

途中、桃太郎は命をかけて戦ったイヌ、キジ、サルに宝物を分け与えてそれぞれの地に向かいました。


 おじいさんとおばあさんは、帰ってきた桃太郎の無事な姿を見て大喜びです。


 そして三人は、宝物のおかげで末長く幸せに暮らしました。

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