見出し画像

気持ちは分かる8(都合のいい言葉について)

世の中は都合のいい言葉に溢れている。
例えば先月、こんな事があった。
とある企業の中間管理職からランチの誘い。
その席で、何か良いアイデアは無いものかね、と言われたので口頭で思いつくまま発言した。
それから一週間後、簡単な企画書を送ったら、もうその件は済んだという。
どういう事かと訊ねたら、もう企画は動いているという。
どういう事かと更に訊ねると、あの後、企画書を作成して会議で通ったと言った。
どういう事かと更に更に今度は問い詰めたら、あのランチで発言したアイデアだと言った。
愕然とした。
私はフリーランスだ。
その私を呼んで何かアイデアを乞うたら、仕事だと思うだろう。
彼は更に言った。
企画は、君の発言にインスパイアされてモチーフにした、と。
ふーん。
何か悪い事をしたね、と言われて少し反省をした。
私にも落ち度がある。
それ、持ち帰って企画にします!
と、あの時なぜ言わなかったのか。
ファミレスに行って、パスタを奢ってもらって、美味しい美味しいと頬張りながら、
こういうの、どうですかね?とか、
こういうのも面白いかもですね、
と、得意げに発言していた自分を嗤う。
こんな事になるなら、一品一品揚げたての天ぷらを提供する店へ連れていって貰うべきだった。
こちらは○○の塩で召し上がりください。とか、
香りづけに柑橘を軽く絞って召し上がりください、とか言ってくれる店にだ。
どうせ領収書で落とすんでしょ!
そんな事を思っている私に、彼はこう言葉を足した。
また今度、食事に行こうよ。と。

このやりとりに都合のいい言葉は3つある。
インスパイア、モチーフ。
そして、また今度という社交辞令である。
反省はしたものの、天ぷら店を妄想した後だったから、
また今度って、いつですか?
と大人げなく聞いてしまった。
また今度は、また今度だよ。また連絡するから。約束するから。
と言ってくれたので気は収まった。
後日、改めて別の方に企画書を見せて貰った。
インスパイア?モチーフ?
キャッチコピーまで、あの時の発言のままだ。
パクったと言わんかい。
私が出した企画書が後出しジャンケンのようになってしまったじゃないか。
しかし、である。
その方が言うには、間違いなく彼は翌日に企画書を上げ、もうその日の夕刻に会議をしていたという。
はたして私にそんなポテンシャルとスピード感はあったであろうか。
悲しいかな無い。
だから、
気持ちは分かる。
でもなぁ、言って欲しかったな。
インスパイア、モチーフなんて逆に聞きたくは無かったよ。

世の中は都合のいい言葉が、まだまだ溢れている。
刺激されて、とか
参考にして、とか。
模倣した、は潔いが良い方か。
ふと、歌関係で思いだした事がある。
ファンも居るだろうし、SNSで発言したら炎上する案件だ。
だけど、書きたい。
何だか書きたい欲望に駆られたので、言葉を選びながら、また今度。
で、冒頭の話。
多く見積もって2カ月近く経つが、まだ食事の誘いは、まだ無い。
ああ、この気持ち、察してください。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?