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「自分の空間」をつくる(VRChat篇)

この記事は、AEC and Related Tech Advent Calendar 2020 の11日目の記事です。AECのV寄りの記事です。
※本投稿は1初心者VRChatユーザーの私見です

はじめに─「野良の空間」の時代

2020年現在、VRSNSの「VRChat」にはさまざまな種類の無数のVR空間が日々たくさん現れている。

VRChatに日々アップされるVR空間の数がどれくらいになるかを正確に把握する方法を持ち合わせてないが、VRChat上に存在する「ワールド」(VRChat上ではひとつのVR空間のことを「ワールド」と呼ぶ)を紹介するウェブサイト「VRChatの世界(β)」に登録されてるワールドの数を計測すると、約49,000ほどになる(ひとつのページで20のワールドが紹介されており、それが2,470ページあるため単純計算をした)。

すでにこの数だけでも、途方もない数なのだが、「ワールド」は日々新しいものがアップされ、どんどん数を増やしている。

https://twitter.com/search?q=%23VRChat%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E7%B4%B9%E4%BB%8B&src=typeahead_click

正直なところ、アップされているワールドは玉石混交もいいところだ。
思わず立ちすくんでしまう風景も存在するが、中にはひどく粗いつくりのものも存在する。ましてや負荷が重すぎて、すぐVR酔いしてしまいそうなものもある。

しかし、この状況の中で最も驚くべき点はユーザー自身がそれらのワールドを生み出していることだ。

そもそもこの「VRChat」というサービスには、およそゲーム性というものは存在していない(ように僕には思える)。あるのはワールドを巡る機能、フレンド機能とアバター機能、そしてカメラ機能と至極シンプルな要素。

ではVRChatのユーザーは何をしているのか?
それは広義の意味でのコミュニケーションだ。このサービスの中でユーザーはフレンドと共にワールドを回り、会話をし、触れ合い、イベントを開催し、そして時には眠りにつく。ここでは生活(のようなもの)が生まれている。
VRChatユーザーのことを知りたいなら、VRChat民によるVRChat民のためのウェブマガジン「バーチャルライフマガジン」を見るとよいかもしれない。また、VR空間をベースに音楽活動を行うユーザーたちもいる。非常に多様なアクティビティが発生しているのだ。

そうした状況の中、自らワールドを生み出すものも現れる。
まだ語っていなかったこのサービスの大きな特徴としてUnityというゲームエンジンを使えば、だれでも「自分の空間」をつくれることがある。

VRChatは無料のサービス(最近ようやく課金要素が追加された)であり、そして、Unityは基本は無料のゲームエンジンである。
つまり、ここで「自分の空間」をつくるための障壁はほとんどないのだ
(正確に言うならば相応のスペックのPCが必要ではあるが)。

こうした状況はワールドを生み出す多くのワールドクリエイターを生み出す大きな要因となっているように思われる。

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「自分の空間」がそこにあることは何だか誇らしい。
自分でつくった空間は誇らしいのだ。そう、これは子どもの頃に「秘密基地」をつくっていた頃の感覚に近い。

「ワールド」をつくることは「自分の空間」をつくることであり、それは誰かと共有するためであったり、個人的であったりする、さまざまな「想い」や「願い」「目的」のもとにつくられている。

あるワールドは一人でも楽しいかもしれないが、複数人が集まってこそ真の存在感を持つワールドもある。その性質は実に多様だ。
VR空間の制作者たちにはそれぞれの思いがある。そうしたものを読んでみるのもよいかもしれない。

このような「ワールド」が無数に存在する現在は、「野良の空間」の時代と呼んでもいいかもしれない。

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「自分の空間」をつくる

ということで、「自分の空間をつくれるんだ」って言うことでね。
慣れれば10分も経たずにそこには世界中からみんなが来れるワールドがあら完成ってな感じで。(もちろん素晴らしいものをつくるには技術とそれなりの時間が必要)

まずは、みんな持っているだろうfbxとかobjとかの3dモデルデータを用意しよう(たまたま7年くらい前にCinema4Dでつくったモデルがあった)。

3D ビューアー 2020_12_10 13_10_42

え?モデルなんか持ってないって?
そんな方は無料の3Dモデリングソフト「blender」をインストールしてみよう。
ソフトを起動すると、人類が数えきれないくらい遭遇してきたキューブがいるから、こいつをfbxとかでエクスポートするんだ。

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もちろんUnityは既にインストールしているよね。
Unityを開いたら、さっきのデータを突っ込もう。

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はい、これで大体準備完了。

VRChatにアップロードするんだから、もちろんVRChatの登録は済んでるよね。

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そしたら、VRChatのウェブサイトでSDKとかいうやつをダウンロードするんだ。Udonとかいう麺類の名前を冠したものもあるけど、現時点では僕みたいな初心者にはSDK2で十分(多分)。

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そしたら、またUnityに戻る。次はダウンロードしたSDKを放り込む。
それから何やかんや2・3ステップくらい終わったら、「自分の空間」がそこに生まれてます。これで世界中からみんなが来れます。やったね。

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細かいやり方はインターネット上のそこかしこに転がってるので「VRChat ワールド作成」とかで検索してね。

一回アップロードしたら、もう怖くない。
あとは理想のワールドをつくるために自分のスキルを磨くだけです。

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ここまで滔々と話してきたが、僕はVRChatにほとんど入れていない初心者だし、ワールドも今年はじめてアップロードしてみたペーペー。
でも、そんな自分でも今年の後半にはじめてワールドをアップロードしてから、3つのワールドを生み出すことができた。

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Unbuilt My Home

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コロナ禍によって隙間時間を使えるようになったので、数年ぶりにモデリングソフトをきちんと触ってみようかなと思い、blenderを起動した。
何をつくるのがよいかなと思案した末に、18世紀の建築家クロード・ニコラ・ルドゥーが構想した建築をベースになにかつくってみようと思った。そうしてできたのがこのワールドだ。特に何もないが、陰影の感じはまあまあ気に入ってる。

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Concrete Block Museum

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去年に続いて、今年もVR空間デザインコンテスト「VRAA02」の運営に関わった。そこで、ちょうど直前にはじめてワールドをつくったこともあり、自分でも作品を提出することにしてみた。

自分にはたいして技術はないので、つくるにあたって何か強めのコンセプトを定めることにした。
そこで「個人的なアーカイブを個人的な空間で収蔵すること」をコンセプトにした。要は個人ミュージアムだ。


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基底現実では、物理的な空間の有限性や、そもそもコストなどさまざまな点で場所を確保することの難しさから個人ミュージアムが存在することは難しい。(それでも「大室美術館」など私設の美術館は存在することにはしているが)

しかし、VR空間ならいくらでもつくれる(PCの処理上の問題とかはありますよ)。
これ以上のことの詳細はここに書いた。

運営の作品は審査対象にはならないが、ありがたいことに運営メンバーからコメント頂いた。泣ける。

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技術的には比べ物にならないが、最近ではメディアアーティストの坪倉輝明さんが個人ミュージアムをつくっていた。

きっとこれから色々出てくるだろう。
楽しみです。

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Room03_wave-Dissipating Concrete Block

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VRChat界隈では、驚くべきことに「空間の売買」が行われている。
VRChatユーザーがつくったアセットが主にBoothなどを通じて販売されており、買って、よければ改変などしちゃってUnityでアップロードすれば、もう「自分の空間」がつくれるのだ。

amanekさんという方のワールドの光の感じが好きで、何度も行ったりしていた。そんなamanekさんが「Room 03 Quiet」というアセットを新しく出したということで、早速購入した。

購入してしばらくは放置していたが、せっかく購入したのだから、何かつくってみるかと思い、色々と考え始めた。

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panpanyaという漫画家の作品に「消波ブロックが乱雑に置かれた公園」というものが登場する。
通常は水中にある「消波ブロック」という存在が地上に露出するというだけで、なんだか奇妙に見えるのだ。見慣れてるにも関わらず。

そもそも僕らが見慣れた「テトラポッド」と呼ばれる構造物は消波ブロックの一商品に過ぎない。消波ブロックの形態は多様なのだ。この多様さが見える空間があるとよいなとまずは考えた。

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映画監督・黒沢清の作品に「リアル〜完全なる首長竜の日」というものがある。この映画では結構な時間が佐藤健と綾瀬はるか演じる役が住むマンションの一室で物語が展開する。

黒沢清の作品では、しばしば「建築」が重要な要素になる。
このマンションもよく見てみると奇妙な位置に柱があるなど、なかなか癖のある空間となっている。

ある人物の意識の中と現実世界を行き来するというのが、この物語のおおまかなプロットなのだが、主人公はだんだんと意識の世界と現実の世界の区別がつかなくなる。
その時に現れる変化として、部屋の中に突如扉が現れたり、水浸しになったりするということが起きる。ここでは「住み慣れた部屋に異物が現れること」で「意識の世界と現実世界の混在」が表現されている(と解釈できる)。
長くなってしまったが、この作品で解釈できたこのような表現を取り入れてみたいと思った。つまり「普通の部屋に異物が混入する」という事態だ。

このふたつの要素をかけあわせてつくったのが、この「Room03_wave-Dissipating Concrete Block」だ。

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正直結局大したことはしなかった(消波ブロックをモデリングしたくらい)が、面白い見えにはなったのではないかと思う。

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「自分の空間」

今年の6月くらいからワールドをつくりはじめて、上の3つのワールドが完成した。これらは誰かに頼まれてつくった訳ではない。余暇の時間に自らの衝動でつくった「自分の空間」だ。

「自分の空間」を自分の手でつくれる。そして、誰かが訪れていく。

つくりはじめるのは簡単と言えど、自分の思い描いた通りのものをつくるためには時間がかかる。一日でできるVR空間もあれば、数か月かけてつくられたVR空間もある。
しかし、このような状況はこれまでの時代になかったのではないか。未だ黎明期とは言えるが、このような流れはきっと広がっていくと思う、広がってほしい。

今回はVRChatのことを書いたが、国内で言えばclusterなどのサービスもある。

VR空間は基底現実とは異なり、そこに存在するものすべてに「誰かの意思」が込められている。基底現実では否応なしに発生するほこりもVR空間で見かけたら、それにはなんらかの意思が込められている(はずだ)。基底現実の空間とは別の論理を持っているのだ。

将来的には現在のインターネットにおけるウェブサイトのように、VR空間は存在することが当たり前の時代になるのだろう。
そんな時代が来ることを期待しつつ、来年はどんなものをつくろうか、年末年始にじっくり考えてみようと思う。

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