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「都市自然」が現れる─『都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる』

進化とは、「手つかずの自然で、何千年もかけて起こるもの」、ではなかった!
人間が自分たちのためにつくったはずの都市が、今では生物たちにとって〈進化の最前線〉になっている。都市には生物にとって多様な環境を提供できる余地があり、しかも地球上の多くの場所が都市化されており、 都市こそが生物の進化を促す場所になっているのだ。
飛ばないタンポポの種、化学物質だらけの水で元気に泳ぐ魚、足が長くなったトカゲ……
私たちの身近でひそかに起こっている様々な進化の実態に迫り、生物たちにとっての都市のあり方を問い直す。

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産業革命以降、人類の総数は増え続け、そして世界中に都市が生まれ、発展し続けている。本書によれば、2030年までには地球の陸塊の10%近くが都市化され、そのほかの大半の場所も人間によって改変された農場、放牧地、プランテーションで覆われることになる。
もっと言えば、同じ訳者によって翻訳された、サイエンスライターのエマ・マリスの『「自然」という幻想:多自然ガーデニングによる新しい自然保護』によれば、既に「手つかずの自然」など幻想だと言う。

従来、都市は自然・生態系破壊において非難の的となってきた。
しかしながら、こうしたホモ・サピエンスという単一の種が惑星全体を覆い尽くし、自分たちに都合がよいように惑星全体を改変している状況は前例がない事態である。そこで著者は、人間が自然と密接に関係し、その活動が生態学的に大きな影響を持つものであるという事実をまず認めるべきだと述べる。
私たちが否応なく自然に影響を与えてしまうと認めた上で、自然に対して適切な態度を取ることがまずは必要なのである。エマ・マリスの著書で述べられているように、徒に外来種を根絶する従来の保全活動は結果として生態系を破壊してしまうことに繋がるかもしれないのだ。

本書は、オランダの進化生物学者、生態学者である著者が都市の中に生まれている新たな自然・生態系に焦点を当て、その事例を紹介していく。現在の自然とは何か、その視点のひとつが「都市で進化する生物たち」なのである。

たとえば、ロンドンチカイエカはロンドンの地下鉄で生まれた独自の生態的特徴を持つ種だ。このカは親類とは異なり鳥ではなく人から吸血を行い、冬眠せずに一年中活動する(なぜなら地下は気温の変化が少ない)。
このように生物は人間がつくり出した環境において淘汰されるだけではなく、進化していることが明かされる。

これから都市や都市人口が増大していく世界において、遠くの自然だけではなく近くの都市環境の変化を見ることの重要性に気づかされる一冊である。

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