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「軍艦島」の歴史を追う─『海の上の建築革命 近代の相克が生んだ超技師の未来都市〈軍艦島〉』

あの時代に、誰がこんな建築を?
巨匠コルビュジエの提唱を10年も遡る大正初期に誕生した海の上のモダニズム建築の謎に迫る、もう一つの日本近代建築史。
日本最古の鉄筋コンクリートマンション「30号棟」を擁する世界遺産〈軍艦島〉はなぜ生まれたのか?
近代三菱の鉱業・造船・土木・建築をリードしたエンジニアたちが、台風・疫病・労働問題といった課題に直面しながら、洋上の孤島を埋め尽くす高層建築群を生み出していくまでの知られざる歴史を描く。

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2015年に世界遺産に登録され、近年注目を浴びる端島。
明治時代初頭から1974年まで高島炭鉱の支坑として操業し、労働者向け住宅や小学校などが高密度に建築が建つ島影から通称・軍艦島として知られている。

本書は、著者の博士論文をもとにし、貿易の要として発展する長崎で炭鉱事業に乗り出したグラバーの時代から三菱の時代までの現在の端島への形成過程を追っていく。
日本で最初(1916年)の鉄筋コンクリートの高層共同住宅である三○号棟がなぜ生まれたかなど、三菱との関係や当時の労働状況などさまざまな観点から端島の分析を行う。
コラム的に扱われているが、初期の高島坑に関わった実業家・竹内綱の家系の人材についての話が面白い。
まず長男は小松製作所・唐津鉄工所の創立者、五男は吉田茂。三男の岳父は中江兆民など後世に名を残すさまざまな人物が名を連ねている。また、長男の妻の山本にも、山本拙郎。山本家の末の娘の息子が池田武邦など、こちらも錚々たる面々だ。
これらの人物たちが基盤としているのが唐津という地であり、唐津と言えば辰野金吾、曽禰達蔵、村野藤吾など有名な設計者たちの出身地だ。
特に三菱で働いた曽禰達蔵は本書で触れられるし、こうした歴史を追っていくと明治期からの鉱業というジャンルとその後の建築の動きが浅からぬ関係にあったということは想像に難くない。

本書では実測図から三〇号棟の3Dモデルを起こすことが試みられているが、近年ではフォトグラメトリも試みられている。こうしたさまざまな試行から新しく見えてくることも今後あるかもしれない。



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