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短編小説「ーX’mas addictionー」(1879字)

 今年もあの季節がやってきた。娘のテンションが順調に高まっているのを感じる。

18日、「あと1週間…」と言って欲しいものリストを厳選し始める。

20日、「今年はこれが欲しい!」と私に『プレゼントおねがいカード』を渡す。

そして今日は24日。12月、24日。クリスマスイヴだ。サンタさんが日本列島を駆け回り、子供たちに夢とプレゼントを届ける日。それが明日。クリスマスという日だ。

クリスマスは、とてもいい慣習だと思う。イエスキリストがいなければ、この喜びは決して味わえなかっただろう。私は今深くイエスキリストに感謝している。

クリスマスのおかげで、私は今の嫁にプロポーズすることができた。

クリスマスのおかげで、私は娘の幸せそうな寝顔を何度も見ることが出来た。

そして、娘が朝起きた時の純粋無垢な喜び、無邪気で闊達な笑顔を心ゆくまで見ることが出来た。

こんなことを言うと「リア充凝縮しろ」と、どこからともなく声が聞こえてきそうだが、こうなっちゃったものは仕方ない(笑)幸せなんだもの。

子供の笑顔さえあれば、もう何もいらない。娘の笑顔は世界一だ。

そうだ!ここで私の自慢の娘であるオリヴィアのスペックを紹介しよう!

透き通るようになめらかな髪はブロンズ、煌めく蒼眼は純粋さの結晶のようだ。整った鼻。絹のような肌。女神のような微笑みは、老若男女を問わず心に春をもたらす。オリヴィアの寝顔を見ていると、自然と笑みが零れる。

ああ!なんと素晴らしい娘だろうか!しかも性格までいいときたものだ。

純粋無垢なその性格は、疑うことを知らない。大人になるにつれ失うはずの純粋さをオリヴィアは失っていない。小さい時と変わらず、輝く瞳で希望だらけの世界を見続けている。そう、小さい時のまま…。

…しかしところで…。「子供」とは何歳までのことを指すのだろうか。

18歳。私はサンタに変装し、オリヴィアの枕元の靴下に希望のMP3プレーヤーを入れ、朝を待った。そして、サンタの格好のまま、朝を迎え、いつものように朝食の席に座った。

私は(オリヴィアも流石に18歳だし、今年で終わりと言うことを分かってくれるだろう。ただ、「サンタはいませんでした」じゃ可哀そうだから、「パパはサンタの一員でした!でも、パパはもうサンタを卒業しなくてはならない。だから、誰かがこの家のサンタを継がなきゃいけないんだ。オリヴィアはもう18歳。結婚もできる歳になった。オリヴィアが結婚して子供が出来たら、今度はオリヴィアがサンタさんになる番だ!どうだ、楽しみだろう!」と言うことにしよう。純粋なオリヴィアだからな、このくらいのサプライズはしないと)と考えていた。

てっきり、いつものように新聞を広げてコーヒーを飲めば、あれはサンタの格好をしてるパパだ!とオリヴィアが思ってくれると予想していたのである。

しかし、オリヴィアの純粋さは、それを上回ったのであった。

「うわ~っ!!!!サンタさんだ!!サンタさんが家にいる!すごい!なんで!やった~!!サンタさんにあえた!!ママ!やったよ!!あれ?パパは?あれ?きっと今日は会社に行くのが早かったんだね!残念だなぁパパは!サンタさんに会えなくて!!!」

 オリヴィアの純粋すぎる瞳を前にして、私に「パパがサンタさんだったんだよ」と言おうとしていた気持ちは木端微塵に吹き飛んだのであった。

結局、「ホッホッホ!オリヴィアちゃんはいい子にしていたようだね!!来年もまたプレゼントをあげよう!!」と言う言葉が自然と口から出てしまった。

その言葉に娘はまた眼を輝かせた。一点の疑いもない、純粋無垢な笑顔がそこにあった。Cute!Pretty!Sweet!Lovely!Kawaii!らうたげなり。つややかなり。可愛すぎる…。どの言葉も彼女の愛くるしさを表現するには不十分であった。オリヴィアの笑顔。私はそれを見るだけで、全てに納得してしまうのであった。

しかし、いつかオリヴィアも現実を知らなければならない時が来る。それを知らせるのは私でありたいと思い、20歳、22歳、24歳、26歳…私はサンタの正体をオリヴィアに悟らせるよう努力し続けた。ある時は、黒焦げになったトナカイとソリ、そしてボロボロのサンタコスチュームも用意して、「サンタ死亡説」をうちたてようとした。しかしそれも、オリヴィアのサンタを信じ続ける純粋さの前では無力だった。

今年オリヴィアは30歳になる。私ももう歳だ。自宅で暮らすオリヴィアにはまだ彼氏もいない。それでも私は、オリヴィアの可愛い笑顔を見るために、今年もオリヴィアの枕元に、優しく、そっと、静かにプレゼントを置く。

オリヴィアの寝顔は、今日も可愛い。



(※addiction =依存症 )


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