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聖人が一人もいないのが良い 映画『桜色の風が咲く』

桜色の風が咲く(2022年製作の映画)
上映日:2022年11月04日
監督 松本准平
脚本 横幕智裕
出演者 小雪 田中偉登 吉沢悠 吉田美佳子 山崎竜太郎 札内幸太 井上肇 朝倉あき リリー・フランキー



コロナ禍入ってから1番泣いた。


マスクがびしゃびしゃになったから。
マスクしながら泣いたらマスクびしゃびしゃになるのね。
この映画に出会うまでは知らなかったよ。


**


聖人が1人もいないのが良かった。


下手したら24時間テレビ愛が地球救っちゃう系の映画かもという心配はあったし
そこまでじゃなくても、
教科書的な、道徳的な映画に収まってる可能性は高かったので、心配はありました。


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「死にたいならお前1人で死ね!」というセリフが出てくるような映画だとは思わなかった。
素晴らしい。


人物に奥行きがあって豊かでした。


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書きたいこといっぱいある。


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医者に対する不信感がずっとあるのがいいですね。


単純な難病者だと
親は混乱しつつも医者の言うことをまるっと信じるし
医者が間違ってるかも知れないなんて言う可能性は映画の中で1秒も匂わされない。


確かにありますよね。
医者からの説明が難解だし早いしで
「もう考えるのやめます。医者の言う通りにします」と思う瞬間。


僕も犬飼ってて動物病院よく行きますけど
信じてまかすしかないし、任すなら諦めるしかないもんね。。


その医者に対する不信感が描かれてたのが最高。


しかも「奥田式」!!!!!
奥田式最高!!!!!!!!


奥田式をやっちゃう智と妻がに対して「バカなのか」と怒る夫もいて面白い。


凡百の難病実話モノだったら奥田式出てこないよねえ。
(出てたらごめんなさい)


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てか、あの天才子役は誰よ。


最初の智。3歳くらいでしたよね。
まずそこから描こうという製作陣の意気込みが好き。


あれはアニマトロニクスじゃないんですよね。
人間なんですよね。
なんなのあの脚本に沿った動き。しかもら自由に動いてる。


さらに9歳くらいなのかな。
次の智も素晴らしかったですね。
長台詞も自然にのびのび言えてました。
なんなの?怪優なの?


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聖人が1人もいなかった、て言うことで言うと。


僕はあの母親像がちょっと怖かったんです。
それが良かった。


しょうがなかったんだとは思うけど、智にのめり込む姿がちょっと間違ったら毒親になりかねなかったと思う。


それを2人の兄と夫が食い止めていたんだと思う。


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2人の兄は〝きょうだい児〟ですね。


きょうだいに障がい児がいる子供。
どうしても親は障がいがある子に集中してしまって、自分は甘えられず早く大人になることを要求される。わがままを言いづらい。


その描写があったし、事実通りに兄が2人いるとこも良かった。
2人いることで家庭を維持する夫の大変さもわかるし、
2人いることできょうだい児としての辛さが軽減されたのかなとかも予想できるし。


ただ、上の2人が大人になったときに(1番上の兄は社会人になってましたよね)、
会社や学校で
「それよりお前の弟って…」とか同僚や友達に言われて微妙な気持ちになったり、もうそれを弾け飛ばせるくらい大人になってるというシーンがあってもよかったかなと思いました。


**




それで言うと智の友達の山田くんと増田さん。


この2人も泣かせてくれましたが、
増田さんがもうちょっと人格があればなぁと思いました。


ちょっと青春のヒロイン過ぎたかな、と。
とても素敵な女性ではあるんだけど。
盲のピアニストを目指す彼女にも爽やかなだけではない側面もあったはず。


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↑と物凄く贅沢な要求をしたくなるくらいに、夫の描写が素晴らしかったのさ。


なんか人気ないみたいですね、この夫。


妻に対して「教える」みたいな語り口で話してくるのがうざいですよね。
夫が教師だからですかね。上からになっちゃう。


優しい人物ではないけど、彼は仕事をしていて(教師でしょ。教師が死ぬほど忙しいの皆知ってるでしょ)、2人の男の子がいる家庭をほぼワンオペなわけでしょ。


妻に対する不満だってそりゃ出てくるでしょ。


この夫によって妻が智にのめり込むのを制御していた役割もあると思いますよ。


智が母親に言う「そう言うのがうざいんだよ!」てセリフは理解できるもん。
智のことを勝手に不幸だと決めつけすぎて不安になったり自傷行為をされてもウザいもんね。


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「死にたいならお前が1人で死ね」と夫が妻に言うシーン。


これ相当勇気のいるシーンだと思いますよ。
ドン引きする観客が多く出るのはわかっててのシーンですよ。


勝手に智の未来がないと決めてんじゃねぇよ、
兄2人と夫(俺)もいるのに何人生詰んだみたいに思ってんだよ
という意味だと思います。
だから妻はあそこで反論しなかったのでは。


あぁわたしまた智にのめり込んでしまってる。


夫は妻を現実に引き戻す役割を担っていたんだと思います。


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ま、この夫婦がもっとコミュニケーションとれていれば…とは思うけど
まぁ難しいですよね。。。


そんなに難問がない夫婦でさえもコミュニケーション取れてない場合があるんでしょ。


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あとはなんか書くことあるかな。


智が結局東京大学の教授になるという事実を僕は知っていたので、かなり安心して見てられました。
それでも何度となく泣きましたが。。


これ知らないままで観たらどれほど不安でしょうか。。
劇場から逃げ出す人もいるかもね。。


東大教授になれたってのは、やっぱり智の前向きで、適度な(過剰な?)わがままなキャラクターもあったからだと思うし
それはやっぱ両親から受け継いだものなはず。


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ビールのシーン良かったですね。


あのビールでわかるもんね。
お前も大人なんだな。
俺たちの手を離れていくんだな。
それは自分で責任を負うことなんだぞ。
というのが一切セリフなく、むしろコメディシーンの中で伝わる。


相当良いシーンだと思うんだけど。


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全体的に説明台詞ではなく語られるシーンが多飼ったと思います。


病気の話なので病気や病状については説明するしかないんだけど、映像や暮らしの中でのセリフで語ってるシーンも多くて、「あぁちゃんとした映画観れてるぅ!」と嬉しくなりましたよ。


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音楽もうるさくなくて良かった。


かなり好きな映画!!!

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