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わが友ラモーナ、あるいは末っ子もつらいよ

私は三人きょうだいの末っ子です。
どうもこの末っ子というのは世間的に「わがまま」「無責任」「甘え上手」「マイペース」といったイメージがあるようです。
昔の職場で上司に注意された際、なぜかきょうだい構成を聞かれ、末っ子ですと答えると「可愛がられて育ったのかしらねえ」とため息とともに言われた記憶があります。「道理で協調性に欠けるわけだ」みたいな文脈でした。まあ確かに協調性はないほうですし、わがまま云々の末っ子特性もそこそこ当てはまると言えなくもないです。あとは「縦型の人間関係が苦手」「権威に反発しがち」といった傾向もあります。
しかし末っ子には末っ子の苦労があります。そもそも私の世代ですら三人きょうだいは少数派でしたので、血液型がABの人が何の科学的根拠もないのに悪く言われたりするのと一緒で、周囲の理解を得られにくい、ということもあります。もちろん長男長女やひとりっ子にもそれなりの苦労があるでしょうし、私の子ども時代がとくに不幸だったわけではありませんが、生まれ変わっても末っ子になりたいとは思いません。

そんな私が子どものころ「この主人公は私だ!私の気持ちを代弁してくれてる!」と思った本があります。

それが「ラモーナ」シリーズです。

これはもともと「ヘンリーくんシリーズ」だったのですが、途中からラモーナが主人公になっていきます(ラモーナは当初ヘンリーくんの友達の妹として登場していました)。私としてもラモーナのほうが圧倒的に好きでした。

それまで読んだ児童文学の子どもははたいてい戦争や貧困といった過酷な状況下でけなげにがんばっていたり、ファンタジーの世界で魔法使いとともに大冒険してたりだったので、アメリカの中流サラリーマン家庭の子どもをリアルに描いたこのシリーズは新鮮でした。今のように日本で浸透していなかった時代にハロウィーンという行事を初めて知ったのもこの本です。ラモーナたちが年中「マグロのサンドイッチ」を食べているので、正しい日本の子どもである私は「わさび醤油をつけたマグロの刺身がパンに挟まっているもの」を想像していましたが、今思うとこれはツナサンドですね。

作中のラモーナは決していい子ちゃんではなく、小さいころは手の付けられないイタズラをして周囲から「鼻つまみ」扱いされていたり、心の中で人を罵っていたりするのですが、それも含めて子どもの心理が丁寧に描写されていました。

繰り返し書かれるのが、「うちのなかでいちばん小さい」ことに対するラモーナのいらだちです(両親、お姉さんのビーザス、ラモーナの4人家族です。あと猫もいますが、ラモーナは「猫よりも年下」という設定のようです)。

末っ子にありがちないらだちとは以下のようなものです。

①「早く大きくなれ」というプレッシャー

末っ子というのはその年齢としては普通の発達段階でも、他の家族と比べて未熟であり、そのせいで足を引っ張っているように見えてしまいます。
子どもからすると「発達段階的に無理な課題を出され、失敗する」経験の連続です。
私もそうでしたが、たとえば「何をやっても勝てない」のですね。ゲームでも喧嘩でも負け続け、そのせいで癇癪を起すと怒られます。家族で外出しても年上のきょうだいと同じスケジュールで行動すれば末っ子だけ疲れたり飽きてしまいます。そのせいでぐずったり走り回ったりするとまた怒られます。

②なのに「いつまでも小さい子扱い」という矛盾

末っ子としては自分が未熟であるのがいけないと思うので、一生懸命背伸びしてお姉ちゃんお兄ちゃんと張り合おうとします。
しかしそれはそれで「生意気」「分をわきまえろ」となるわけですね。ラモーナもそうですが同年齢の子どもと比べたらむしろ早熟だったりするのですが、それで家庭内の序列は揺るぎません。末っ子は周囲からの「早く大人になってほしい」と「いつまでも子どもであってほしい」という矛盾した期待にさらされることになります。

③やたらと笑われる

小さい子のちょっとした失敗や言い間違いなどは大人からしたらかわいいな、と思うところでしょうが、本人からすると「間違いや失敗をいちいち笑われる」というのはけっこうなストレスです。これが大人同士であれば、何か失敗があっても「気づかないふりをして受け流す」「恥をかかせないように後でこっそり教える」というのが礼儀でしょうが、末っ子には適用されません。むしろ「おバカな失敗をして周囲をなごませるのが手のかかる育児の代償として支払うべき税金」のように思われているかのようです。
もちろん笑われるのは末っ子だけではなく、お姉ちゃんお兄ちゃんも同じです(「自分ばっかり笑われる」と抗議するラモーナに対して、お姉さんのビーザスが「私も前はよく笑われた」と言うシーンもあります)。でも上の子が笑われている時点ではまだ末っ子は産まれていないので、結果として「自分ばかりが笑われる」状態しか体験できないのです。また家庭内に年上の人間が多いほど笑われる機会も多くなります。
ちなみに私は子どものころ「早く大きくなって誰からも笑われずにすむようになりたい」と思っていました…

そんなラモーナですが、最終巻の「ラモーナ、明日へ」では妹のロバータが誕生し、なんと末っ子ではなくなってしまうのですね!
それはともかく、この想像力豊かで生き生きとしたラモーナと、世界中のたくさんのラモーナのような子たちが、いつまでも幸せでありますように、と願っています。


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