シャッフルさん
シャッフルさん、とは携帯音楽プレーヤーのシャッフル再生機能を擬人化したものです(私が勝手に命名しました)。
私のイメージでは、シャッフルさんはクラゲかタコのようなホヨホヨした姿で、サングラスとキャップを着用し、英語で曲紹介しながらその長い触手でレコードやCDやミキサー卓を同時に操っています。
通勤電車で音楽を聴くことが多いのですが、ストリーミングとかではなく、未だに10年くらい前に買った古式ゆかしいウォークマンを使っています。
たいていシャッフルさんに選曲をお願いしているわけですが、うちのシャッフルさんはあきらかに選曲が偏っています。同じ曲が続いたりするのはもちろん、「ボブ・ディランさん来日決定記念」「先日亡くなったアーティスト追悼特集」「受難曲まつり」などが勝手に開催されています。
(ライブラリの数千曲中で受難曲のアルバムなんて2枚しか入ってないのに全部受難曲って、どれだけ不吉な日ですか…?)
また最初の1曲を自分で選ぶと、こちらの意向を忖度するのか似たジャンルの曲が続くのですが、しばらくすると「もうよかろう」という感じでぜんぜん違うジャンルになります。
ランダム再生がランダムに聴こえない、というのはよく聞く話で、それは確率的にあり得ることで人間側の錯覚だとか、ソフトによってはランダムっぽく聴こえるようにあえて調整されているとか、調べてみるとおもしろそうですが、難しいことは専門家にお任せしましょう。
偏りがあっても、私はシャッフルさんが好きです。
毎日シャッフルさん心づくしの選曲に耳を傾けていると、だんだん自分がシャッフルさんに愛されているかのような心境になり、こちらもシャッフルさんを憎からず思うようになります。
電車が個人的な思い出のある地点を通過したとき、その瞬間にイヤホンからその思い出にまつわる曲が流れだして驚いたことがあります。私の心を見透かしたとしか思えません。
偶然、と言ってしまえばそれまでですし、自分で設定して思い出の場所で思い出の曲がかかるようにするのは何でもないことですが、不思議な感動があります。
10年前の機種に高度なAIが搭載されているはずもなく、最先端の機能にかなうはずもないですが、グーグルさんの見え透いたおすすめなどより、偶然という名の神様が起こす小さな奇跡のほうが、私には好ましいように思うのです。
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