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放浪癖と貧乏性

子どものころ、クリスマスに「シルバニアファミリー」のおもちゃを買ってもらったことがあります。
たしか「アーバンハウス」というシリーズで、ウサギ一家とおうちと家具のセットでした。
ウサギの分際で豪邸に住んでいます。二階建て屋上バルコニーつき、おしゃれな家具も完備で、当時の私が住んでいた団地よりよほど豪華でした。

さて、私はさっそくそのシルバニアで遊び始めます。最初はメーカーの思惑どおり、おうちのなかで椅子に座らせたりしておままごとをするのですが、すぐ飽きてきます。どうもあまりに揃いすぎて、想像力を働かせる余地がないのです。
そこでだんだん怪しい方向に脱線しはじめます。まず悪徳不動産屋(ミニカーのダンプ)が現れ、ウサギ一家は追い出されてしまいます。豪邸も家具もすべて奪われ、巾着袋ひとつにかろうじて持ち出した全財産を詰め、三角の布(母が趣味のパッチワークで使った端切れ)を「真知子巻き」にして、「おかあさん、寒いよう」「がまんしなさい」などと声をかけあいながら、荒野(カーペット)をさまよい、悪徳不動産屋から家を奪還する日を目指して大冒険が始まるのでした。

まったく宝の持ち腐れで、せっかく買ってもらったおうちと家具は、ほとんど使われないままでした。私には荒野をさまよう後半部分のほうがはるかに「萌えた」のは事実です。

別の年にお姫様の人形も買ってもらいました。もちろん私のお姫様は宮殿に安穏としてはいられません(人形におうちは付いていなかったので、学習机に宮殿のセットをつくってシルバニアの家具を転用しました)。
父王亡き後、王位を狙う叔父の一派に命を狙われ、闇夜に王宮を脱出し、信頼できるわずかなお供を連れて隣国(カーペット)に亡命を余儀なくされます。手持ちの人形の都合上、お供はペンギンの貯金箱と「ウグイス笛」のウグイス、というあまり強そうなメンバーでないのが残念ですが、この二人はなかなか頼りになり、ペンギンはおなかのコインで一行の生活費をまかなってくれ、ウグイスは献身的にお姫様の世話をしながらいざという時は笛の音色で敵を追い払うのです。お姫様も自ら剣を持って戦います。
最初の人形は、身分を隠すために長い金髪を私がハサミで切ってしまい、母に怒られたので、二代目からは髪形を変えると正体がばれない設定にしました。

思えば私はもともと「エルマーのぼうけん」という本が好きでした。

この本のなかで、主人公のエルマーが冒険の旅に出るため荷造りをします。そこで「エルマーのもっていったものは、チューインガム、ももいろのぼうつきキャンデー二ダース、わゴム一はこ、くろいゴムながぐつ、じしゃくが一つ…」といちいち描写されるのですね。
途中でみかんがなっているのを見つけて食料に追加するのですが、その時もリュックにみかんをいくつ入れて、道中いくつ食べて、残りいくつになったか、必ず書かれます。子ども心にも、みかんがなくなることに不安と一緒にちょっとスリルも覚えたものです。
別の巻で、助けた相手からお礼に宝物を贈られるのですが、目録が出てきて何をいくつもらったか、読み上げられる場面も大好きでした。
(このリスト好きは大人になっても引きずっていて、今は図書館員として所蔵資料の目録作成に日々携わっていることを思うと因縁を感じます)

どうやら私には、豪邸やおしゃれ家具や、数えきれないほどの財産など性に合わないようです。
今も私のウサギたちとお姫様たちは、袋ひとつに全財産を詰めて、荒野をさまよい、牙を研ぎ、復讐の機会をうかがっているのです。


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