あふみのうみ

漫画・小説『淡海乃海』【しょぼくれ中年ダイアリー】11月11日

「なろう小説」ってごぞんじでしょうか?

若者にとっては常識で、オッサン世代は知らない世界です。ぼくもオッサンなので詳しくないですけど、「小説家になろう」というサイトに投稿された小説のことらしいです。

内容に特徴があって、異世界に転生した話ばかりだそうです。

それってSF?と思うけど、そういうことじゃなくて、現世ではさえなかった人が、ここではない世界に生まれ変わったら、いきなり才能豊かなヒーローになってる、みたいな話のオンパレードみたいですね。なんという欲望にストレートな(汗

最近は異世界転生のパターンが拡散しまくって、温泉に転生したとか、わけわからないものも出ています。

そんな説明はいいとして、そのなろう小説にハマってしまったんですわ。読み始めたら面白くてたまらない。読んだのは歴史モノです。

かなり詳しい歴史モノなので、正統的?なろう小説から見たら、異端なのかもしれません。でも、ぼくが読んだやつ以外にも、農業高校に通う女子高生が戦国時代に転生して、織田信長家臣となって農業改革を目指すというストーリーもヒット作になってるようなので、戦国モノもひとつのパターンなのでしょう。

ぼくが読んだのは『淡海乃海』ってやつ。「あふみのうみ」と読み、琵琶湖のことです。

漫画版と小説版があって、最初は漫画版を読みました。それが面白くて、しかし漫画は2巻までしか出てなくて、話が全然進んでません。

やむなく小説版も読みました。読んでみると小説版の方がずっと面白いですね。小説の方はだいぶ長くて、何百ページかあるやつが6巻まで出てます。いくら読んでも読み終わらなかったですね。

あらすじとしてはこんな感じです(以下ネタバレ)。

歴史好きの50代のオッサンが、いきなり戦国時代に転生します。行った先は朽木(くつき)家ってとこ。近江の国(滋賀県)に8000石の領土を持つ朽木家って領主の跡継ぎに。

朽木というのは、織田信長が朝倉義景を攻めようと越前に向かったとき、浅井長政の裏切りで挟み撃ちにあい敗走しますよね。金ヶ先の退き口ってやつ。そのときの逃亡ルートに出てくる地域名であり、武将名です。

たいていの信長漫画(小説)には朽木谷を通って京都に戻ると出てきます。それを助けた朽木基綱というのが、この漫画での転生先です。現実の歴史ではたいして活躍してなくて、そのときくらいしか名前が出てきません。

転生したときは2歳の幼児だけど、中身は50男です。朽木家は父が戦死したばかりで、彼は2歳にして領主として活躍を始め、富国強兵、殖産興業の方針を打ち出します。

まず関所を廃し、税金を軽くする。楽市楽座ですな。

そして独自の産業を興す。澄み酒、干しシイタケ、綿花、刀、蒔絵など。

稼いだ金で兵隊を雇い、兵農分離した常備軍を持つ。また鉄砲、硝石も独自に作り始める。

この経済力と軍事力でもって、まず近所の国人衆の領地を取り5万石になります。次に浅井氏を破って30万石になります。その後も、朝倉氏を破り、六角氏を破り、北陸をさらに広く平らげ、どんどん領地を拡大していきます。

貿易に熱心で、蝦夷地、明、南蛮、琉球と交易相手を増やしていき、経済力は拡大する一方です。

そして比叡山を焼き、伊勢長島一向一揆を根切りします。

つまり、現実には織田信長がやったことを朽木氏がやるわけです。この世界にも織田信長はいますけど、領土は尾張、美濃までです。

そして主人公・朽木基綱は、足利義昭をバックアップして将軍職に就かせますけど、すぐ仲が悪くなります。朝廷は足利より朽木を選び、いずれ足利義昭は追放されそうです。

6巻の最後の方では独自通貨を発行しそうになってます。そのとき海外との金銀の交換レートの違いまで気にしてます。当時、南蛮では金と銀の交換比率は1対15で、明では1対10だったそう。つまり、明で銀を金に換え、南蛮で金を銀に換えると儲かります。それをくり返すと無限に儲かっていく。じゃあ日本の基準はどうするかと。

江戸時代の歴史にはこういう話が出てきますけど、16世紀当時にこういう発想ってあったんですかね?

主人公が当時の歴史に詳しいので、他の武将とは打つ手のレベルが違うんですよね。戦争するときも単純に軍事力では押さず、まず相手の兵站から切り崩して必勝の構えを取ってから攻撃します。

諜報戦にも強くて、最初から独自の忍び衆を抱えてます。伊賀・甲賀じゃなくて、丹波の独自系です。

戦争シーンはすぐ終わっちゃうんですけど、描写したいことがたいしてないんでしょう。もし現代人が織田信長になれたら、どれくらいうまくやれるか、そんなテーマこそ書きたいことなんでしょうね。

ようするに、ゲームの「信長の野望」を小説でやってる感じです。ぼくは「信長の野望」をプレイしたことなくて、いずれはやりたいというのが悲願なんですけど、まさにその世界です。

本作はなろう界では大ヒット作みたいで、これがデビュー作の作者も、だんだん知識のレベルが上がってきてるのか、後半になると独自の歴史観みたいなものまで出てきます。こういうのを書けるのは、文筆業者としてすごいやりがいでしょう。素晴らしいことですわ。

ずーっと読んでると、小説の世界というよりも、ゲームっぽい感じがしてきます。淡々としてて大きな感情的ドラマがないんですよね。ラノベ(ライトノベル)って全般にこんな感じなのかな? ラノベはシンプルな文章が基本で、レトリカルなテクニックは使おうとしない世界だというイメージなので。

だいぶ面白くて、これを読んでる期間は幸せでした。王道的な時代劇小説を読むよりも、こっちの方が面白いなって思いましたね。


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しょぼくれ中年ダイアリー

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本業は麻雀ライターの、麻雀以外の日々のエッセイです。出版、本、漫画についての話が少し多めです。

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