安マイクの飼いならし方

 多少Geekなマイク記事ですが、面倒な実機改造はいたしません。

 昨今、市場で見られる安価帯マイクのほとんどには、ドイツNEUMANN社のU87等に使われるK67カプセルのコピーが採用されている。
 K67クローンは外注メーカーによって出来不出来もあるが、様々な方面で扱いやすい設計なため安マイクに限らずミドルレンジからハイエンドマイクにも採用される。
 気になる方はRecordinghacksで一部データベースを見る事ができる。

 マイクの最も単純な改造方法は、このカプセルを乗せ換える事だ。
 ただ、マイクはカプセルだけで音が録れる訳ではなく、その下には回路基板がある。K67を採用しているからと言って同じ音にはならず、むしろ同じ音を探す方が難しい。つまり、ここでパーツの厳選や追加等、どうアレンジしていくかも品質(と費用)を大きく左右する要因となる。

 さて、今回の標的はBehringer B-1。お値段約1万円。
 Behringerとは、ドイツの原価にナイーブな殿方が興した夢のある音響機器メーカーである。音響市場に中華メーカーが台頭する以前、安価帯といえばBehringerとされていた。
 更には中国に「ベリンガーシティ」なんか建てて高級機を次々パクり散らかしている。お前めちゃくちゃするやん……

 B-1はRecordinghacksによると、Beijing797Audio製のK67クローンにSchoeps回路※1のアレンジという構成で、797Audioの名前の入った初期型のStudio Projects C1に類似しているとされる。
 このK67クローン+Schoeps回路の組み合わせはもはや鉄板である。Schoeps回路を採用する安価なマイクを使い、カプセルを乗せ換えて音質を比較するというベンチマーク方法も存在する。

 B-1にはいくつかRevisionがあり、その過程で周波数特性が変わった可能性があるが、現在公表されている周波数特性はコレである。

こんなマイクいっぱいあるよね。

 元になったとされるStudio Projects C1はK67に本来必要な高域減衰回路が省かれており、K67自体の高音を強調する特性が反映されている。カプセルの品質に問題はないという見立てから、Modify(改造)すればU87に近づける事ができると話題になり、Recordinghacks主宰のマット氏(マイクオタク)が運営するmicpartsでMODパーツが販売される事となった。
 しかし、C1用のMODパーツはB-1には適用できないため、IR(インパルスレスポンス※2)を読み込んで疑似的に特性を近づける試みが行われた。そのIRを読み込んだ際の周波数特性はこうだ。

IRは「Behringer B-1 mod」とかで検索すればどこかにある。

 そもそもMOD回路の目的は単なるHFロールオフである。私は基盤改造はおろかインパルスレスポンスを読み込む事すら面倒だったので、EQP-1Aでカーブだけを寄せてみる事にした。
 EQP-1Aはただ私が気に入って使い倒してるだけで、EQ自体は別にどれを使っても良い。良いというのは、ここまでEQすればどこかしらにボロが出るので真面目にやる必要はないという意味である。

見づらい。
似てなくもない。

 このIR、もしくはEQを適用したB-1の音は、高域にクセのある1万円のマイクからクセのない1万円のマイクに変わる!!!
 K67を使った安マイクで高域が気になる場合には、こういう手法で飼いならせるかもしれない。

 ここで残念なお知らせだが、私はU87を持っていないのでU87に近いかどうかは確かめる事が出来ない!!!さようなら(逃亡)

※1 Schoeps Circuit
ドイツの老舗マイクメーカーSchoepsが提唱した古典的なコンデンサーマイク回路。柔軟性のある回路で調整が容易なため安価帯のマイクに利用されている。

※2 ImpulseResponse
特定の状況下でパルス信号を収録し、記録された応答を音源に適用する技術。リバーブが主な用途だったが、機材の特性モデリング、ギターの音をオルガンに変えたりなど様々な用途に使われるようになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?