国立公園の成立過程に見る「瀬戸内」
こんにちは、ひよこです。
お盆休みの方もいらっしゃれば、お仕事の方もいらっしゃるかと思いますが、ぜひとも熱中症には気をつけたいところですね。コロナ対策のためのマスクが、今年の夏は却って命取りになるかもしれません。
さて、STU48の5枚目シングル「思い出せる恋をしよう」のオンラインお話し会の抽選受付が開始されてしばらく経ちますが、今日は先日のツイキャスで話題に上がった「瀬戸内海国立公園」について、歴史的にその成立過程を考えてみたいと思います。
STU48のファンの皆さんは、誰に言われるでもなく、瀬戸内地方を訪れることも多いとは思いますが、瀬戸内地方一帯の自然が、実は環境省によって「国立公園」に指定されており、自然環境及びその景観を保護することが法律によって定められていることをご存じでしょうか?
「国立公園」は自然公園法に基づいて決められ、瀬戸内地方以外にも、知床や富士箱根・伊豆地域、雲仙天草、屋久島等々、日本全国に数多く存在しています。人の手の加わっていない森林地帯、人の住む集落地、観光地など、その形態は様々ですが、それぞれの地域ごとに適切な保護方法が「公園計画」に従って設定され、日々整備されています。
この「国立公園」のうち、実は「瀬戸内海国立公園」というのは、日本初の、すなわち最も古い国立公園として指定された歴史を持ちます。それは、今から約90年遡った1930年代のことでした。
当時、満州事変の勃発によって、東アジアをめぐる戦争の足音は刻一刻と近づいていました。政府は国威発揚のため、社会のあらゆる領域において「日本の伝統」の継承・発展を声高に叫ぶとともに、国民が皆健康になるよう、政策を実行し始めました。知力・体力ともに充実し、「日本」を背負うに相応しい国民を創出するため、特に衛生・医療・文化面において、1930年代半ばから様々な国策が目立つようになります。1920年代後半に始まったラジオ体操の再編成(集団行動としての側面の強化)、厚生省の創設・厚生運動の開始、建国体操の誕生は、その最たる例です。
1931年、アメリカのナショナルパークをモデルとした国立公園の議論をもとに「国立公園法」が制定され、ハイキング等の余暇の促進及び「建国神話」の共有による思想善導を目的として、「国立公園」の設置が求められるようになりました。時代状況のもとで、「国立公園」は広義国防に向けた国民の心身の鍛錬、紀元2600年に向けた建国神話の教化、外国人観光客への日本精神の宣伝といった役割を担うこととなります。
第二次世界大戦の開始、東京オリンピック開催の頓挫を受け、「国立公園」は「ファシズム的民衆統合の一環」として位置づけられるようになり、国民の心身の強化、思想の教化を促進する地域として認識されていきます。霧島や吉野熊野などは「建国神話」と結び付く形で、立山連峰や黒部峡谷等を含む中部山岳はその厳しい自然から「健民育成」と結び付く形でそれぞれ選定されます。
(倉敷市公式観光サイト 倉敷観光WEB:https://www.kurashiki-tabi.jp/seto80th/)
瀬戸内海国立公園は、そのような過程で、1934年3月に初の国立公園として認定され、現在では陸地のみで6万ha、海域を含めると90万haを超える、日本最大の面積を誇る国立公園となっています。
1934年指定当初は、現在の岡山県倉敷市の鷲羽山などの一部地域でしたが、以後拡張されてきており、今日では厳密には、大阪府や福岡県、大分県も含む範囲となっています。
古代から海上交通の要衝として栄え、穏やかな海に大小様々な島が点在している瀬戸内海。豊かな自然に囲まれながら営んできた人々の生活の跡は、今日でも色濃く残っています。
その美しさを「国立公園」として定めた背景には、戦争へと向かう時代の中で共有された重要な意味が込められていました。すなわち、「国立公園」は「国家」によって創出された「景観」だったのです。
「伝統」を再認識させる「国立公園」の姿は、現代を生きる私達に何を語るでしょうか。
(終)
【参考文献ほか】
・環境省HP (https://www.env.go.jp/park/index.html)
・藤野豊『強制された健康―日本ファシズム下の生命と身体』(吉川弘文館、2000年)
・藤野豊『厚生省の誕生―医療はファシズムをいかに推進したか』(かもがわ出版、2003年)
※瀬戸内海一帯が国立公園に指定された一連の議論の過程では、当時内務省衛生局の嘱託として調査に従事していた、田村剛(1890~1979)という人物の存在が興味深く映ります。他の国立公園との関係で、瀬戸内海一帯がなぜ選ばれたのか?瀬戸内海はどの程度重要視されていたのか?といった、具体的な制定プロセスについては、今後機会がありましたら書きたいと思います。
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