中国に学ぶ最先端のブロックチェーン活用

どうも、すべての経済活動を、デジタル化したい福島です。

今回は「中国に学ぶ最先端のブロックチェーン活用」と題して、中国における取り組みについてご紹介します。

先日IPO申請が話題になったアント・フィナンシャルついても取り上げています。

(金融専門誌「週刊金融財政事情」へも同様の内容を寄稿しております。)

中小企業向け融資を効率化する中国の新手法


コロナ禍で世界経済の不透明さが増すなか、中国・北京で5月、全国人民代表大会が開催された。全人代では不透明な未来に備え、国内経済の地盤を固めるべく、足元では「安定を保ちつつ前進を求める(穏中求進)」方針を採用することが示された。その具体的な施策として、農村部の技術・金融インフラの整備や、製造業の高度化と新興産業のさらなる発展など、各種マクロ政策上の目標や、市場全体での新たな競争力獲得に向けた定性的な達成事項が提示された。

今後、中国がこれらの目標を達成するには、GDPの60%を占め、企業数の99.6%を占める中国の中小・零細企業の力は欠かせず、これを支える金融機能の役割はより重要となるだろう。そこで今回は、中国がどのように金融機能を提供しているのか、最先端の事例を見ていきたい。

例年、中国政府は国内金融機関に対して、中小企業への支援を強化するようメッセージを打ち出しているが、今年の全人代では「大手銀行の中小・零細企業向け融資の伸び率を40%以上とすること」を目標として掲げた。少額・高頻度のマイクロファイナンスの需要を持つ中小企業は多く、彼らに適切な金融サービスを提供できれば、融資の伸び率は大きく高まるだろう。

しかし、中小企業と銀行の間には情報の非対称性が存在するため、実態としては、なかなか期待どおりに融資が進んでいない状況にある。なぜなら、中小企業の財務データは大企業のように整備・標準化されておらず、銀行が信用リスクを評価するには大きなコストがかかるからである。そのため、これまではサプライチェーン上で一定規模の事業展開をしているコア企業を起点に、その取引先へと裾野を広げるかたちで融資を行う「商流ファイナンス」が主要な打ち手となっていたが、融資できる先には限界があった。

この情報の非対称性を打破し、スムーズに融資を行うため、昨今では、サプライチェーン上の商流活動を信頼できる情報共有基盤に記録し、これを金融機関が共有することで、融資プロセスを高速化する取り込みが進んでいる。

商流と金流を一括記録し中小企業の信用情報を把握


例えば、IT大手アリババグループの金融企業であるアント・フィナンシャルが展開する商流ファイナンス「Double Chain(ダブルチェーン)」では、情報基盤としてブロックチェーン(分散型台帳)技術を用いている(図表)。これにより参加企業の売掛金の状況をリアルタイムに把握できる。

【図表】商流と金流を一元化するアント・フィナンシャルの取り組み

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ダブルチェーンに参加する金融機関は、これらの情報を参照し、機械学習などを用いて信用リスクのレベルを判定している。これらにより、通常3カ月要していた融資のプロセスが数秒にまで短縮している。ここで融資した結果も同様にブロックチェーン上に記録することで、商流と金流に関する情報が1カ所に集約され、これまで把握することが困難だった中小企業の信用情報を一挙にデジタル化することに成功している。これにより、中小企業の資金調達環境が改善するだけでなく、銀行にとってもリテールビジネスを活性化させるきっかけともなっている。

また、こうしたブロックチェーン活用の動きをさらに加速させる材料として、中央銀行である中国人民銀行が発行を準備するデジタル通貨「デジタル人民元」の開発動向についても注目したい。モバイル端末が普及した中国では、アリペイやウィーチャットペイといった民間企業による独自の決済ネットワークが急速に台頭した。これらは経済発展に大きく寄与したものの、国民の生活を支える決済インフラリスクが民間の手に委ねられるという好ましくない側面も露呈させた。この課題への対処方法として、中国では2014年からブロックチェーンを用いたデジタル人民元の研究が進められており、近年中に社会実装される見通しとなっている。国家主導でのデジタル金融インフラ擁立は、国際銀行間通信協会(SWIFT)に依存した既存の国際決済システムからの脱却も意味する。デジタル人民元の登場は、今後、伝統的な金融業務の効率化に役立つのみならず、中国の国際社会での競争力向上にも直結する動きになるだろう。

このように中国では金融のデジタル化を通して、中小企業への融資効率化を実現しつつ、国家全体としての競争力向上を目指している。

カギはデジタル化による「アジリティー」の獲得


当社は、デジタル化について、①紙からデジタルへ、②可視化(ログとして経営に意味のあるデータへの変換)、③自動化、④産業間連携 の四つの段階があると捉えている。そして企業はデジタル化を進めることで、変化の激しい競争環境で生き抜く上で欠かせない「アジリティー(正しく、素早く意思決定し、実行につなげる力)」を得られると考えている。

今回紹介したアント・フィナンシャルの事例は、①から③に係るデジタル化がすでに進展した上で、さらにブロックチェーンを基盤に据えて、④産業関連携を目指したものと解釈できる。デジタル化を進めた先の金融の姿として、学ぶべき点は多いだろう。

日本の金融業界を見ると、コロナ禍でも紙ベースでの契約書のやり取りがあり、はんこで押印するために出社しなければならない従業員がいるなど、①の段階で苦戦している企業が多い。今後、あらゆる商取引がデジタルに移行し、グローバルスタンダードとなっていくことは「確定された未来」といえる。日本企業もまずは足元の業務一つひとつをデジタル化し、アジリティーを得ることが、これからを生き抜く上で欠かせない取り組みとなるだろう。

出典:「週刊金融財政事情」2020年8月24日号掲載、「きんざいOnline」 https://kinzai-online.jp/node/6687

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