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第25回Book Fair読書会@新宿~青い人魚のさえずりが聴こえる~

(頭痛を訴えても、焼きごてを押されない時代の)地球に生まれて良かったーーーーー!!!!

7月以来の開催となるBook Fair、第25回は新宿(最寄り駅は新宿三丁目、会場所在地は五丁目)で開催しました!

今回の会場は、『文藝サロン epokhe』さん!

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epokheさんは、カウンターに店長さんが推す本も置かれていて、「本のある、本の話ができる」お店です。リラックスした雰囲気で、以前から「ここで読書会をやりたい!」と思っていました。

もちろん、イベントのない日でも行きたいので、皆さんぜひ飲みましょう!!!笑

◆場所だけでなく、当日の準備やBGMでもアシストしてくださった店長さん、本当にありがとうございます!

(店長さんオススメの本、さっそく買って積読にしました笑)

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初のBar開催、ふっかーも美味しいウォッカトニックを入れながらの進行でした。フワフワした気分でとても楽しかったです…(いいのか)

マスク着用や換気、消毒のうえ行った「新しい様式の」Book Fair。どんな本が紹介されたのか、見ていきましょう。

ヒロさん→(13)メーテルリンク『青い鳥』(堀口大學・訳)新潮文庫

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幸せは、身近な所にあった…そんな教訓を感じる結末が有名な『青い鳥』。ファンシーな設定も多く、子供向けの寓話(童話)という印象を持たれがちです。

ただ、ヒロさんによると「もとが戯曲だからこその、哲学的な側面が知られていないのでは」。

たとえば、主人公のチルチルとミチルが旅をする世界。死者と出会う「記憶の国」や、幸せが擬人化された「幸福の花園」、これから生まれてくる子供たちがいる「未来の王国」など、考えさせられます。

こうしてみると、2人が家に帰ったら、出発前には”普通”だった鳥が”青い鳥”になっていた…という展開は、「幸せに気付くまで、旅をする(思索する)ことに意味がある」という暗示にも思えます。

そして、手に入れたはずの青い鳥が、すぐに飛び去ってしまうラストも、なかなかに示唆的です。老若男女問わず、幸せの本質を見つめたい方は、「読み時」かもしれません。

ちなみに、ヒロさんは、江國香織さん訳の『新装版』が読みやすく、台詞回しも好きだそうです。

Masaki Tanigawaさん(初)→島本理生『イノセント』集英社文庫

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島本理生さんといえば、最近では第159回直木賞に輝いた『ファーストラヴ』が有名ですが、20代から多くの作品を発表してきました。

その「多作」ぶり(後で調べて知ったのですが、デビューから約5年で芥川賞候補3回!)は、まさにどれから読むか迷うほど。Tanigawaさんの帯からも、その才能と勢いを感じますね。

『イノセント』は、シングルマザーの「比紗也」、経営者の「真田」、神父の「如月」が主要な登場人物です。

真田と如月は、それぞれ比紗也と〈些細だけど運命的〉な出会いを果たします。絶望を抱えながら生きる比紗也に惹かれ、助けたいと思う男2人。

ここだけ読めば、なんだか三角関係に突入しそう…ですが、Tanigawaさん曰く「単なる恋愛小説にならず、超えてくる」

三者三様の過去、そして如月が神父という「宗教者」である立場も絡みながら、物語はどこに辿り着くのか…気になります。

MWAVEさん(初)→温又柔「魯肉飯のさえずり」中央公論新社

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タイトルの「魯肉飯」は台湾語でロバプンと読みます。中華料理店のメニューにはよく「ルーローハン」と書かれていますが、これは北京語なんですね。

『魯肉飯のさえずり』は、台湾出身の母と、日本出身の娘。ともに日本人の夫と結婚した、親子の二視点で進む小説です。

娘の幼少期は一心同体とも言えるほど仲の良かった2人ですが、母がついストレートな日本語表現を使ってしまうなど、次第に「言葉」ですれ違います。

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時は流れ、大人になった娘は、母が教えてくれた魯肉飯を夫にふるまいます。でも「ふつうの料理のほうが俺は好きなんだよね」と言われ、ショックを受けます(かつて日本人である父が、母の魯肉飯をおかわりしていたのとは対照的)。果たして、「ふつう」とは何か

戦後の台湾を生きた、母の家族のエピソードも次々と明らかになり、人間を取り巻く文化・歴史・アイデンティティについて考えさせられます。

MWAVEさんの語りを聴いて、私は中島みゆきさんの『産声』という曲を思い出しました。多様性が叫ばれる一方、外国にルーツを持つ人が「純粋な日本人ではない」と呼ばれる社会。

たとえ悪気はなくとも、終わりの見えない息苦しさを、誰かに押し付けているのかもしれません。

LauLauさん(初)→リディア・ケイン、ネイド・ピーターセン『世にも危険な医療の世界史』(訳・福井久美子)文芸春秋

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LauLauさんが、インスタグラムで発見したのは、古今東西の「とんでもない治療法」を沢山集めた本です。

読書会では、LauLauさん選出のワースト3が発表されました!!

【第3位】やむをえず!首絞め麻酔

手術に欠かせない麻酔。しかし、「切る」「縫う」などの技術に対し、麻酔は追い付いていなかった…

そこで人間が選んだのは、患者の「首を絞める」作戦でした。失神させて(仮死状態?)、その隙に施術!命を救うために、命がけの決断なのです。

【第2位】いぼ痔も頭痛もこれ一本!焼きごて療法

体に痛いとこあれば、皮膚を強火で炙るといい…そんな拷問みたいなこと、していた時代があった!

焼きごてで、体内の悪いものを追い出す!という気迫が感じられますが、あまりの熱さに、その瞬間は痛みを忘れてしまうのが実際でしょうね。

重要なのは、「中途半端な温度にしない」「その後、エンドウ豆のすり汁を幹部に塗る」ことらしいです。

【第1位】怖すぎて解説できない!穿頭術

名称からなんとなく想像できるかもしれませんが、とにかく怖いです(会場でも悲鳴が…)。

LauLauさんがワースト1位に推すのも納得でしたが、全部書いてしまうのもつまらないので、ここまで!勇気のある方は、ぜひ本書を読んでみてください。

LauLauさんによると「単なるインチキではなく、当時の人が本気で治ると信じていたことが重要」。先人たちが、真面目に試行錯誤していたからこそ、ちょっとおかしく、大きく感謝して読めるのでしょう。

じゅんぺいさん(13)→高橋留美子『人魚の森』小学館

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漫画の読書会『東京まんがたりお茶会』主催のじゅんぺいさん。今回は、高橋留美子さんの「人魚シリーズ」から”ダークな”イチオシを披露してくれました。

これは、食べると不老不死になる「人魚の肉」をめぐる短編集です。永遠の命を前にした人間の死生観、そしてそれを得てしまった者の孤独が描かれます。

不老不死の力を求め、争う人々。しかし、食べられたとしても、逆に猛毒となったり、怪物となってしまったり…。実験のために、家族に食べさせようとする悲劇も起こります。人魚の肉に関わると、ことごとく幸せになれていないんですね。

主人公の湧太は、人魚の肉によって得た不老不死を拒否しています。だから人間に戻るため、(その方法を知るらしい)人魚を探す旅に出て、そこに同じ境遇の少女、真魚が加わります。

複数の時代をまたぎ、2人が出会うキャラクターたちを通して、人間の汚い部分が見えてくる。まるで、季節外れの怪談を聴いたような気分になりました。

由希澪櫻さん(初)→野村美月「むすぶと本。 『さいごの本やさん』の長い長い終わり」KADOKAWA

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東北地方にある街で、最後の一軒だった本屋さん。みんなに愛されていましたが、店主さんが不幸な事故で亡くなり、惜しまれつつも閉店の運びとなります。

バイトさんたちが閉店フェアを準備する中、東京から「本の声が聴ける」「本と喋れる」という不思議な男の子がやってきます。その少年・むすぶは不思議な能力を活かし、本とお客さんをつなげようとします。

そのうちに、「脚立から落ちて亡くなった」という店主さんの死の真相も、少しづつ明らかになる…という、書店を舞台にした連作短編集(ミステリー要素もあり)です。

ちなみに、KADOKAWA内の別レーベルから、『「外科室」の一途』というライトノベルも同時刊行されています。こちらは、むすぶとその彼女・夜長姫が主役のお話です。

実はその彼女も「本」なのですが、どうやらむすぶの浮気が心配な様子。2冊を通して「人と本の恋」が楽しめます。

帯には、「さいごの本やさんは今、全国の至る所にあるのでは?」との想いを込めたそうです。確かに…!

床さん(初)→小川糸『喋々喃々』ポプラ文庫

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文庫本に装着されていた元々の帯には、「おいしいものを一緒に食べたい人がいます」。とても、ほっこりする文章です。

しかし、その上にかぶせたい!と、床さんが提案したのが上記の警告でした。「既婚者になってから読むと主人公に腹が立つだろうから独身のうちに読んでおけ」え?なぜ?

実はこのお話、主人公の女性・栞と、妻子持ちの男性・春一郎が繰り広げる「大人の恋の物語」なのです。

床さんをして「脳内お花畑女子」と言わしめるほど純粋な栞と、内面がほとんど語られることのない春一郎さんの恋。人によってはイラッとくるかもしれないゆえ、床さんの帯は「トリセツ」になっていたんですね。

文章としては、美味しいものを食べる時や、季節の移ろいを表現する言葉が綺麗です。「不倫」の話が苦手でも、安心して読めそう…。

また、栞は東京・谷中でアンティーク着物店を営んでいる設定で、読みながらご当地の名所を楽しめる点も魅力だそうです。

それでも、左手薬指には光るものがある春一郎さんは、「家族との時間」で暫く会えなくなることも。

季節は流れ、2人の関係は終わっていく…と思いきや、彼の薬指に変化が!?どうなるのでしょうか。

ふっかー(25)→サミュエル・サトシ『ブラインドから君の歌が聴こえる』河出書房新社

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これは音楽の夢を断たれ、病で視力を失いもした青年が、ブラインドサッカー(視覚障害者のサッカー、ブラサカ)で新しい自分になる物語です。

DJから、ブラサカ日本代表へ。人生の2点をつなぐのは、主人公の神がかり的な聴覚です。「声を使って戦う宇宙戦艦」「同じ闇の中で、空間認知能力と音の解像度で勝負」といった試合の描写は、興奮を誘います。

しかし再起の道のりは、良い出来事ばかりではありません。いくつもの絶望や、痛みを伴います。

いち読者の感覚ですが、今作で重要なのは、挫折の原因が緑内障よりも、精神面だったことに思えます。

私の帯は、レコード会社の契約を取れなかった主人公が、幹部から「弱さ」を指摘される場面に着想を得ました。

不運や失敗に見舞われても、決して周りのせいにせず、大きな「1」を作る大切さ。簡単ではないですが、この小説から学んだことです。

皆さん、本当にありがとうございました!!次回もお楽しみに!!



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