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502 Bad Gateway(相馬 光)

目を覚ますと、見知らぬ鉄橋の前にいた。
辺りには霧が立ち込めていて、目の前に橋があることしかわからない。

橋には歩道と二車線分の車道がある。
橋桁は鉄骨でできた大きなトラス橋だ。
向こう側どころか、途中からは真っ白で先が見えない。
私はとりあえず、橋を目指して歩き始めた。


人の気配はなく、静かだ。
この静けさが心地良い。
ここには、私以外には誰もいないのだ。
ひとりきりになるのは、久しぶりだ。


すこし見た目がいいから。
すこし面白いから。
すこしためになるから。


そんなすこしが重なって、多くの人に知られるようになった。
毎日色んな人が来て、色んな言葉を残していった。
ちやほやされて悪い気はしなかった。むしろ浮かれていたと思う。

人に来てもらうことがうれしくて、いつしか私はあることないこと言うようになった。
人を怒らせたり、悲しませたりすることが「役割」だと思っていた。
数字に執着するようになったのはこの頃だった。
数字が増えれば増えるほど、私の身なりはよくなった。
私にとって、数字はすべてだった。

でもそれがきっかけで、傷ついた。

火をつけられたのは土曜日の夜中だった。
気がついたらもう自分では手が付けられないくらいに燃えていた。
その火は私だけでなく、色んな人に燃え広がっていった。

あの頃からすこしずつ、私が身にまとっていたものは減っていった。
嘘をついたり、人の神経を逆なでするようなことは言わない。
そのかわり新しいことも言わない。

誰も、私を見なくなった。

私には世話をしてくれる人がいる。
その人は私が不調を訴えると、つきっきりで原因を調べてくれる。

でも今日はいない。
その人はいつもすぐに来てくれるのに。

そもそも私は不調なのだろうか。
苦しくも痛くもない。
不調ではないのだとしたら、その人は来なくてもいいのだ。



橋を歩いてしばらくたつ。
橋の下もまっ白で、何も見えない。
どれぐらいの高さなんだろうか、下には何があるのだろうか。
この橋はいつ終わるんだろうか。
橋の向こう側には何があるんだろうか。



霧はより一層、深くなる。
先どころか、目の前に何があるのかも見えなくなってきた。
それでも前に進む。いや、進んでしまう。

この橋を越えたら、どこに着くんだろう。
そこはどんな景色なんだろう。

誰かいるのだろうか。
それとも、誰もいないのだろうか。









502







渡ったらもう







Bad










戻れないのだろうか









Gateway













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相馬 光(そうま ひかる)
文芸をやっている。脚本を書くことが多い。
脚本『新米姉妹のふたりごはん(4月16日から再放送始まります!)』
脚本協力『グッド・ドクター(4月9日から再放送始まっています!)』、『ストロベリーナイト・サーガ』など
第29回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作『サヨナラニッポン!』
第28回フジテレビヤングシナリオ大賞最終選考『余命60秒』
『書き出し小説大賞』と『文芸ヌー』にも書いている。
(インターネットウミウシ名義)




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