白骨、蚕蛾、干からびた島々

 私は古本屋が好きだ。その日は神保町で古い小説数冊とベクシンスキーの画集を買い、いつもの喫茶店に入った。薄暗くこぢんまりとした店内のソファで画集を開いた。乾いた死と荘厳な退廃、終焉の画家。廃墟と十字架、骨、骨、骨。身を重ねる奇形の屍。

 画集には私が知らない13枚の絵が混じっていた。オンラインデータベースでも見た記憶がない。製作年、所蔵ともに不明……。

 突然、雷鳴が轟いた。窓の外は土砂降りになった。手元が暗くなった。

 マスターはTVを見ていた。インスタレーションの特集。廃墟に乾いた動物の死骸を吊るしている。画集の中の1枚に似ていた。
 
 また雷が鳴り映像にノイズが混じった。画面の向こうでインタビュアーが首を吊った。

 空気がとても乾いている。珈琲の残りが無くなって、カップに黒くこびりついている。机の上は砂埃まみれだ。マスターが死んでいる。干からびた死体になり、繭のように白い糸で半ばカウンターと一体化している……。

【続く】


#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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