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小説・雑記

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創作物のまとめ箱 冒頭小説、掌編、端切れ
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2019年2月の記事一覧

愛読者カードを、出さなくっちゃ

 『ゴーメンガースト』三部作の四冊目、『タイタス・アウェイクス』を買おうとした。密林を見るとプレミアが付いて倍以上の価格になっている。2014年の創元推理文庫。たった5年前の本だ。幸い、大型書店に棚差しの在庫がわずかに残っているかも知れないとのことで、取り寄せ注文した。  ゆえに私は、ちょうど読んでいるグラビンスキ『動きの悪魔』に挟る愛読者カードを取り出し、書き始めた。熱烈な褒め言葉を連ねるでもなく、ただ、グラビンスキの未翻訳の小説の刊行を求む旨を簡潔に記し、投函する。

原稿めも

 よくきたな。おれは原稿用紙換算だ。1枚なら400字、5枚なら2千字だ。50枚で2万字、300枚で12万字だ。たまに1枚200字のやつがいるが、そいつは半ペラというきゃくほん世界のおれだ。  それはまるで延々と続く荒野の道のようだ。アスファルトの舗装もなく、Beyond the horizon でも、そのまた Beyond the horizon でも途切れることのない道。あるき続けるには体力が要る。1枚でスタートを知った。5枚で数歩あるいた。次は50枚という準備運動を1回か

六次の隔たり

 午前0時前。巨大な交差点の真ん中。最後のシラップ漬けの缶詰を開けて、コンクリート片にもたれかかった。腕時計を見ながら、無線機のスイッチを入れる。 「CQ. CQ. CQ. こちらはフォックストロットの渋谷。定時連絡、どうぞ」 「了解。渋谷、こちらはアルファの北京。ノーヒット。パリ、どうぞ」 「了解。北京、こちらはアルファのパリ、同じく。カイロ、どうぞ」 「了解。カイロ、こちらはアルファのカイロ。クラスタ係数ヒット。121。繰り返す。ヒット。121。どっかでループかね、渋谷ど

ワールズ・エンド・セカンドハンド

 ワールズ・エンド通りから細い路地に入り、暗く、入り組んだ煉瓦の迷路を五分ほど北に歩く。すると、開業中なのかどうかさえ怪しい店が並ぶ横丁に出る。その端に、バフェット&ウォレンズ古道具店がある。  その日は、土砂降りだった。ただでさえ薄暗い店は杳として奥行きが知れなかった。背が高いフードの女が扉を押すと、壊れたベルがガラガラと間の抜けた音で鳴った。埃と黴の臭いがする室内に湯気が漂っていた。 「これは、〈灯命のサモワール〉という品です」  小柄で中性的な青年がテーブルについて