六次の隔たり

 午前0時前。巨大な交差点の真ん中。最後のシラップ漬けの缶詰を開けて、コンクリート片にもたれかかった。腕時計を見ながら、無線機のスイッチを入れる。
「CQ. CQ. CQ. こちらはフォックストロットの渋谷。定時連絡、どうぞ」
「了解。渋谷、こちらはアルファの北京。ノーヒット。パリ、どうぞ」
「了解。北京、こちらはアルファのパリ、同じく。カイロ、どうぞ」
「了解。カイロ、こちらはアルファのカイロ。クラスタ係数ヒット。121。繰り返す。ヒット。121。どっかでループかね、渋谷どうぞ」
「こちら渋谷。推測は6から7。121は伝達ミスの可能性を疑う。アルファ方面は以上。続いてベータに聞き取りを行う。10分ほど待たれたし。どうぞ」
「了解」

 通信機を切り、缶詰に一つしか入っていないチェリーを摘み出してくわえた。人口60億でもお友達係数は6くらいじゃなかったっけ。いくら何でも121はないよな。聞き取りできた範囲内では、誰もが7人か8人そこらと通信できているのに。別の通信機のスイッチを入れる。

「CQ. CQ. CQ. こちらはフォックストロットの渋谷。定時連絡、どうぞ」
「了解。渋谷、こちらはベータの熱帯。ノーヒット。微熱ぶり返す。極圏、こちらは熱帯、どうぞ」
「了解。こちらはベータ極圏。ノーヒット。寒いより暑いほうがマシだろ。図書館、どうぞ」
「了解、こちら図書館。ヒット、120。ヒット、120。どうだ。どうぞ渋谷」
「了解、渋谷だ。アルファから121の報告があった。121。ただの偶然か、意見乞う、どうぞ図書館」
「了解。図書館。偶然ではなかろう。それから渋谷、もう一件ヒットした。今夜、例の渋谷の交差点にいるはずの人数は19人。しかし周りには誰も居ないだろうな、フォックストロットの渋谷君。今度こそはと思ったが。およそ30年前、わしも同じことをした。何度も。恐らく、我々がいるのはスモール・ワールドではない。それから、誰も、同じ星には居ない」


#逆噴射プラクティス

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