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ディジタル書斎10 脳の中のビックデータ

脳の中のビックデータ
最近、ビックデータ、 ディープ・ラーニングという言葉がよく出てきます。構造化されていない膨大なデータ、例えばPOSのデータやネット検索のログデータ、そしてSNSの投稿データを人工知能の技術の一つであるディープ・ラーニングを使って分析して、何が売れているのか、そしてこれから何が売れるのか等という知識を抽出する話です。こういった話は、以前はデータマイニングと呼ばれていましたが、最近ではビックデータをディープ・ラーニングで分析するという話に代わりました。あの時代も人工知能の技術が使われていましたが、この10年ほどの人工知能の研究の進展とクラウドコンピューティングという低コストのスーパーコンピュータの実用化により、企業がごく普通に利用できる様になったわけです。
自分で収集したビックデータの利用は無論ですが外部から購入することも可能です。例えば今話題になっているインバウンドの爆買いに関して、何がどこでいつ売れているかというビックデータは購入することができます。
話題のタクシーの配車のシステムは、多くの人が行きたい場所をあぶり出します。民泊のシステムは多くの人が訪れたい場所をあぶり出します。旅行案内サイトも多くの人が旅行に行きたい場所をあぶり出します。というようにビックデータの分析は今やごく身近です。数多くのウェブによる情報サービスが提供されていますがほとんどすべてがマスマーケティングの分析データの収集が目的です。ですから無料でいろいろなウェブサービスが提供されているわけです。
私たちの脳の中にもビックデータはあります。長い人生の中で見たり聞いたりした情報は脳の中に蓄えられています。人間の脳は巨大な記憶能力がありますから人生すべての情報は脳の中にあると考えましょうか。ただそれを価値ある情報として引き出す能力は自覚できません。人の名前が出てこないなどというのは単純な脳の機能不全だと思いますが、何十年前に会ってもこの人に会ったことがある、とりわけ何十年ぶりに同窓会で会ってもその人の顔はすぐ判ります。そして暫く話しているとだんだん昔の顔も思い出してきてお互いにそのイメージで話していると思います。現実的には頭も薄く、白く、そして顔にも皺がありますが、脳は昔のデータを引っ張り出してきているのではないでしょうか。
わたくしは今はすっかり変わってしまった、生まれ育った町の町並みを脳の中では再現できます。駅からあの店があったこの店があった、そこには同級生がいた、そしてこんなことがあったとかなり鮮明に思い出すことが出来ますから脳の中に情報が残っているのでしょう。
加えて、これまで長い人生で見た情景、読んだ書籍、訪れた風景、人との交渉、葛藤、喜び、悲しみ、感動などに関するデータも脳の中にあるはずです。
仕事の上で、そして生活の上で良い選択や決断を出すとき、最後は直感ではないでしょうか。この直感というものは、脳のなかのビックデータを人工知能ではなく本物の脳が分析結果として出してくるのではないでしょうか。これはあくまで私の仮説ですが。この直感という能力はコンピューターによる人工知能では出来ないのではないでしょうか。研究者はできるというかもしれませんが。
人間を打ち負かすチェスや将棋のアルゴリズムはある意味単純です。コンピューターにとって得意技といって良いでしょう。といってもこれまでのコンピューターの能力は不十分でしたがスーパーコンピュータやクラウドコンピューティングでこの限界は超えられました。ですから可能になったのです。単純な株の売り買いもコンピューターの方が人間より上かもしれません。ただ市場心理や政治家の思考を入れると、今話題のフィンテックもまだまだ限定的な能力だと思います。
脳のなかのビックデータ、これを日常の仕事や人生の状況認識や意思決定にもっと積極的に使えないかと誰しも思いませんか。それを考えてみました。
人間の脳の情報処理の基本は、情報の収集、分析、編集です。ですから、まず質の良い情報を積極的に収集する必要があります。これについては既にこのコラムで紹介しました。分析は特定の視点が必要です。すなわちテーマです。例えば業界、テクノロジー、環境、低炭素社会、格差、貧困、食育などです。興味を持っている視点が決まらないと分析という作業を脳がしません。また興味を持っている視点を意識していると情報の収集の量と質が変わってきます。ですから仕事の上でも人生の上でも興味ある視点を持つことがとても重要です。
分析は意識してやることもありますが、脳という人工知能をはるかに超える超スーパーコンピュータは無意識下で処理しているのでしょう。ですから突然脳にアイデアがひらめきとして降ってくるわけです。降ってくるタイミングが色々です。私の場合は本を読んでいるとき、朝、目が覚めてうつらうつらしている時とか、ワインも飲んで30分くらい時間がたった時とか、ですが。
情報を価値ある知識や、アイデアに変換することが情報の編集です。これは明示的に価値ある情報を創り出そうという意思を持って作業する時です。原稿を書く、プレゼンテーションを作る、企画書を作る、時です。
ただ質の良い脳の中のビックデータは短期間では作れません。ビジネスや社会や人生に積極的な好奇心と、何かを求める心を持っていないと収集できません。分析は訓練も有効です。まずやればできるという前向きなマインドセットが必須です。これまでの私の日本人の観察では悲しいほどに、脳が「出来ない」状況を探索している人が大部分です。当然頭がいい人ほど精密な「出来ない」論理を編集します。そして何も実行しないで人生を終えると、その結果は・・・ご想像にお任せします。

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