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軽やかに悟りをひらく――藤井風『帰ろう』
ある日ふとこの曲を聴いて、一気に心を奪われた。
はじめて聞いた時は歌詞の内容というよりも、音楽のやわらかさと壮大さを感じた。Bメロからサビに入った瞬間に、ぶわっと世界が広がって心がのびやかになる感じ。初夏のぽかぽかした空気のなか、木陰で芝生に寝っ転がって、風が頬を撫でる。「あ~心地いい。最高。」っていう、そんな感じ。
この曲を気に入ってからは、何度も何度も繰り返し聞いている。そうする中で、歌詞に対しても考えるようになった。とはいえ、私は歌詞の考察をするつもりもないし、何が正しいとか、本人が何を考えて作ったとかを話すつもりはない。ただただ、曲を聴いて歌詞を噛み締めたときに、自分のいろんな思考と絡んだので、ここに書いておきたいだけだ。
歌詞の全体を見ると、死生観について書いているのだろうと受け取れる。しかし、自由な解釈をすると、本当に幅広い解釈が可能だ。どの歌詞も素晴らしいが、私は2番のAメロが一番心に染みた。
『あなたは弱音を吐いて
わたしは未練こぼして
最後くらい 神様でいさせて
だって これじゃ人間だ』
「最後くらい 神様でいさせて」という気持ちは、かなりさまざまな気持ちが込められているフレーズだと思うが、実は私もこのような気持ちになったことが2回ある。大好きな彼と別れたときと、私をいじめていた友人たちを許したときだ。
結婚まで考えていた彼との別れを決めた時、私はまさにこの気持ちだった。彼はひたすら謝っていた。私は自分から話しをしておきながら、彼への未練が隠せずにいた。
それでも、彼との最後の時は、自分の気持ちを押し殺して、優しく、穏やかで、彼の心情も理解し、お互いの将来の幸せを願う、そんな万能な自分を演じたいと願っていた。最後くらいは神様のような自分を演じないと、苦しみで自分が駄目になってしまいそうだった。
また、学生時代に私をいじめていた友人たちを許したときも、このような気持ちだった。思春期にありがちなちょっとしたいじめだった。
「先生にひいきされている」とか、「みんなから人気で目障り」とか、そんなありがちな感情から生まれたものだったらしい。
それでも、私自身はそのようなことを実感したことがなく、「自分は他人からそういう風に見えているのか」と気づくとともに、精神的にかなりダメージを受けた。
10年以上経った今でも、昨日まで友人だったはずの人間と一斉に目が合わなくなったあの日々を思い出すことがあるくらいだ。
しかし、当時の私は意外と大人で、承認欲求の強い彼女たちを少々気の毒に思い、また、そういう気持ちは自分自身の奥底にもきっとあると感じたため、彼女らを許そうと決めた。
自分のつらい気持ちを外には出さず、彼女たちの前でひとりでも堂々と過ごしたあの日々。いじめというものを終わらせて、まるで無かったことのようにしてしまうには、人間のままの自分では弱すぎた。
自分を神様のように思い、彼女たちを許す立場に心を置くことで、やっと自分の心を救うことが出来たのだ。
また、この歌詞も私の心を打った。
『わたしのいない世界を
上から眺めていても
何一つ変わらず回るから
少し背中が軽くなった』
「自分がいなくたってどうせ世界は回るから、自分っていなくてもいいんだ」という気持ちとは違い、「だからこそ自由に何でも挑戦していいんだ」という気持ち。
これまで幾度か転職をした。会社を辞める理由はあまりポジティブなものではなかったが、転職自体は人生にとってかなりポジティブなものだった。
しかし、「友人に転職ばかりしていると思われるのは恥ずかしい」とか「自分がいくら頑張っても、頑張らなくても、会社にとってわたしは一つの駒でしかないんだよな」という、ネガティブな気持ちになることもあった。
最近になって思うことは「私がいてもいなくても何も変わらない社会なんだから、自分は自分だけのために豊かな心で生きよう」ということ。
他人の評価も、自分の存在価値も、本当にどうでもいいものだから、背負いこむ必要なんてさらさら無い。
ようやくこんな簡単なことに気づいた私の背中を、この歌詞はぐっと押してくれた。
私はまだ28歳。年齢は重ねてきたけれども、人間としての深みはまだまだな年齢。それでも、自分なりに様々な経験を重ねて、気付きを得て、たまに悟りを得て、生きてきたと自負している。
それに対して、『藤井風』はあの若さでこんな歌詞を書き、作曲をし、表現をしている。そのことに、彼の感性と豊かさと思考の深さ、表現力の多彩さを感じる。
『帰ろう』は歌詞全体の流れや抜け感のあるメロディーが合わさって、さらに広がりを感じさせてくれる曲だ。この曲を聴くだけで一気に悟りを開けるような気までしてくる。
ぜひ一度聴いてみることをおすすめする。爽やかな曲なので、ドライブのおともにいかがだろうか?
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