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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第43話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 夕方からは吹雪になって、ホワイトクリスマスと言うよりホワイトアウトクリスマスになった。
「この辺が吹雪になるなんてスッゲー珍しいよな。いつも雪なんか積もんないのに」
「まあ最近、異常気象だしな」
「あれじゃね? きっとシューゾーが国内に居ないんだよ」
「ああ、あの太陽神か。でも本人は気にしているみたいだから、あんまり言ってやるなよ」
「そうなのか……繊細な一面があるんだな、シューゾーにも」
 そんな阿呆な会話をしながら、ぽん吉を抱いた京一郎と窓の外を眺めていた。すると、壁の時計を見上げた京一郎が「さて、そろそろ夕飯の支度をするか」と言った。ちょうど五時半を回ったところだ。
「なあ、京一郎さんよぉ」
「何だその声の掛け方は。嫌な予感がするから、予め断っておく」
「何をだよ!?」
 別に頼み事をするつもりはなかったのにそう言われて、俺はぷんぷんした。それから腹の膨らみに手を添え、ぽつりと呟く。
「来年のクリスマスは、三人なんだよな……」
「そうだな。今からワクワクすっぞ」
「京一郎こそ何だその言い方!?」
 いきなりふざけられて動揺したら、京一郎はあははと声を上げて笑った——可哀想に、俺とずっと一緒にいるせいでキャラが崩壊し始めている。
「そうじゃなくて、真面目な話、産んだら怒涛の子育て、始まるんだなと思って……」
「そうだな。大変だ」
「俺、こんななのに赤ちゃんなんて育てられるのかな……」
 実はずっと不安に思っていたことだった。佐智子には『家事も自分で出来ない人間には絶対無理』と言われたから自分なりに頑張って、一応一通り出来るようになった。けれどももちろん、それだけでは十分でない。
「俺も子育てなんかしたことがないし、自信が無いのは同じだ。でも、赤ん坊は待ってくれないからな。無理矢理にでも突き進むしかない」
「そうだけど……」
 元元赤ちゃんなんて欲しいと思っていなかったのだし、やっぱり考えなしだったな、と反省した。当然、子作りした責任は京一郎だけではなく、俺にもある。
「あずさは、もう十分に頑張っているからな」
「え?」
 不意にそう言われて、意味が分からず首を傾げた。すると京一郎はふっと笑って続ける。
「あずさは今この瞬間も、お腹で子育てしているじゃないか。もちろん生まれた後の子育てとは違うが……。だから産んだ後は、俺があずさの倍、いや三倍は頑張るから、安心していてくれ。いや、自信など無いのにそう言うのも無責任か……」
「マジ? じゃあ俺は鼻ホジして寝てよー。ありがとな、京一郎パパ」
「……」
 そんな丸投げ発言をしたら、京一郎は何とも言えない顔になったから、ぷっと噴き出して言う。
「京一郎こそ、一人で気負い過ぎるなよ。半人前同士、力合わせて二人前になったら良いじゃん」
「あずさ……」
 そう言うと京一郎は僅かに涙ぐんだが、ぼそっと「計算間違えてるぞ」と呟いた……。

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