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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第36話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 クリスマスイブの朝はよく晴れていた。京一郎は起きてすぐからご馳走ちそう作りに大忙しで、家中に食欲をそそる香りが充満していた。
「なー京一郎。ポテト摘んで良い?」
「良いが、全部食べてしまうなよ。昼ごはんだからな」
 京一郎特製の皮付きフライドポテトに手を伸ばしながら聞くと、そう釘を刺された。一度、ご飯前に全て平らげてしまった前科があるからだ。
「あー、揚げたて最高! 何でも作りたてが一番ですなあ……ってことは生まれたての赤ちゃんも美味いのか」
「何を言っているんだお前は」
 俺のサイコパスみのある発言に、京一郎は眉を寄せて突っ込んだ。俺は続けて言う。
「でも、新生児って良い香りするんだよな。ほんのり甘いっていうか。従姉いとこが子ども産んだ時に抱っこさせて貰ったらさ」
「ああ、そう聞くな。残念ながら俺は嗅いだことがないが……楽しみだな」
 京一郎は包丁でグラッセにするニンジンを切りながらそう言った。俺はほんのり赤くなって尋ねる。
「京一郎はさ、赤ちゃん出来て嬉しい?」
「当たり前だ。何で今更そんなことを?」
「いや、ちゃんと言葉で聞きたくて」
 下を向いてもじもじしながらそう答えたら、京一郎はふふっと笑って「あずさちゃん、可愛いな」と言ったので真っ赤になる。自分で強請ねだっておいて何だが、らぶらぶあまあまでずかしい。
 俺こそまだちゃんと言葉で伝えたことがないけれど、京一郎のことはとても好きだ。強引だったし、最初は何だこいつ、と戸惑ったが、今は出会えて幸せだと思っていた——でも、素直に気持ちを伝えるタイミングがない。
 しかし今夜は、恋人達の聖夜である。
「つーか、日本人が勝手にそうしてるだけなんだけどさ……」
 思わず考えていたことを口に出してしまってから、「やべっ」と呟いたけれどもう遅い。京一郎は怪訝そうな顔になると、「クリスマスのことか?」と聞いたので「察しがいいな」と褒める。
「まあ、日本人は何でも自分達流にカスタマイズするからな。だが楽しいイベントがたくさんあるのは良いじゃないか。人生、辛いことの方が多いからな」
「そうだよなあ。俺、京一郎と出会うまではイブの夜は鼻くそ穿ほじりながら爆睡してたわ……今年はいきなりリア充でびっくりする」
「寝ながら鼻くそを穿れるのか……」
 京一郎はやや感心した様子でそう呟くと、ふと俺の目を見て真面目な口調で言った。
「ところで今夜はヤりまくるぞ。日本のカップルのならわしだからな」
「言い方が下品過ぎる!」
 俺は京一郎みたいに突っ込みながら、耳まで真っ赤になった……。

「そういや、夕食のメインは何なん?」
「スペアリブだ。マーマレード煮」
「おおっ、何か食ったことないけど美味うまそ!」
「食べたことがないのか? 意外だな」
「俺ん家、ばーちゃんが料理担当だからさ。そんなお洒落しゃれ? なの出て来ない」
「そうか。きっと美味くてびっくりするぞ」
「楽しみ!」
 そんなやりとりをして、俺と京一郎は食卓に着いた。昼食の献立は、先程摘んだ皮付きフライドポテトにグリーンサラダ、「チキン南蛮タルタル」だ。甘酸っぱい味付けと、卵と玉ねぎをたっぷり使ったタルタルソースが食欲をそそる。
「京一郎、ありがとう! 美味いもの三昧で超幸せだわ!」
 ガブッとチキン南蛮に齧り付き満面の笑みでそう言ったら、京一郎は嬉しそうに笑って「良かった」と応えた。
「あずさが来てから、俺も料理するのが何倍も楽しくなった。やはり、美味しそうに食べてくれる人が居るのは良いな」
「だろ? 京一郎、俺に出会えて本当に良かったな!」
「自分で言うな」
 俺の言い草に京一郎は突っ込んだが、すぐにあははと笑った。そんな彼にいつ気持ちを伝えよう、と思ってドキドキした。
「さて、食べたらぽん吉さんの散歩に行くぞ……って、さっきからぽん吉さんの姿が見えないな」
 京一郎はそう言って、箸を握ったままきょろきょろした。確かに、いつも食事のときぽん吉はテーブルの下をうろうろしているのに居ない。
「あ、あそこに居るな。おーい、ぽん吉さん、何してるんですか?」
 ぽん吉はソファの前に敷いてあるラグの上に居た。腹這いになってソファの下に鼻先を突っ込んでいるのを見て、俺は「あーっ!」と叫んだ。短い前足を使って、カシ、カシ、と何かを取ろうとしている。
「ボールが入ってしまったんですか? 取ってあげますよ」
「ダメーッ!」
 京一郎がそう申し出たのを遮って、俺はダッシュでぽん吉のもとへ向かった。それから抱き上げてソファから引き離したら、ウーッと唸られたので慌ててそばに居た京一郎に渡した。
「ああ、そういえばそこには変態漫画があるんだったな……」
「知っとるんかい!」
 まさか隠しているのがバレているとは思わなかったので叫ぶと、京一郎は「安心しろ。読んだりしない」と言ったから胸を撫で下ろした。
「それにしても、お前に特殊性癖があったとは……。今まで普通にしかしてやらなくてすまなかったな」
「いやいや特殊性癖とか無いから!!」
「嘘をつけ。態態わざわざ漫画まで買った癖に。それに、俺は結構特殊なプレイにも対応出来ると思うぞ。受け付けないジャンルもあるが……」
「マジかよ! 別に対応してくれなくても良いから!」
 京一郎こそ変態じゃないか、と思って俺は真っ赤になったが、念のため「頼むから、次もいつも通りでお願いします!」と頼んだ……。

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