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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第34話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「なあ、京一郎! 寒いから、ウリトラライトダウン買ってよ」
「あんな安物で良いのか? というか、今着ているのも同じだろう」
「ちょっと縫い目がほつれてきたんだよね。大分へたってるし……」
「そうなのか? では洗い物が終わったら行こう」
 物は試しと強請ねだってみたら、あっさり許可が下りたのでやっぱり金持ちって良いな、と思った。佐智子なら絶対「自分でつくろいなさい」と言うだろう。京一郎は昼食に使った皿を仮洗いしている。軽く汚れを落としてから食洗機に入れるのだ。
「それとさ、俺の誕生日知ってる?」
「ああ、そう言えば聞いたことが無かったな……」
「いつだと思う?」
「ふむ……」
 クイズを出したら、京一郎は手を動かしながらやや上を見て考えていた。少しして答える。
「お前のことだから、子どもの日だろう。五月五日」
「何で俺だと子どもの日なんだよ!」
「あずさちゃんは、丸切り子どもみたいだからな」
 京一郎はニヤッと笑ってそう言ったから、俺はぷりぷりして「これでもそれなりに人生経験積んでるんだからな!」と言い返す。それから続けて答えを教えた。
「ブブーッ! なんと! 俺の誕生日は十二月二十五日、クリスマス当日でーす!」
「ほう!」
 振り返った京一郎は目を見開いてそう応えた。それから再びニヤッとして言う。
「じゃあ子どもの頃から損していたんだな。どうせ、クリスマスと誕生日のプレゼントを一緒くたにされていただろう」
「な、何でそれを……」
「クリスマス前後に生まれた者の宿命だ」
 京一郎は重重しくそう言ったから、俺は「そうだな」と頷いて肩を落とした。全くもって不公平である。
「京一郎の誕生日はいつなん?」
「いつだと思う?」
 質問したら、京一郎は俺に倣ってそう聞き返した。腕組みしてうーんと唸り、暫く考えてから答える。
「多分、京一郎も特別な日なんだろ。六月六日!」
「六月六日? 何かの記念日だったか?」
「別に? 六って悪魔の数字(※獣の数字)だから……」
「俺は悪魔なのか!?」
 俺の言い草に京一郎は叫んだが、はあ、とため息を吐いて正解を言った。
「一月一日、元旦だ」
「ええっ」
「ふふん。何事も正統派な俺らしいだろう」
「自分で言うなし!」
 俺は眉を寄せて突っ込んだが、意外に自分達は誕生日が近いな、と思った。そして、落ち落ちしていたらすぐに年が明けるので、早めにプレゼントを用意することに決めた……。

 ウリトラライトダウンが販売されているユ◯クロの店舗は結構近くにある。バイパスへ出て、例のス◯バを道の向こうに見ながら三分くらい北へ歩くと到着だ。
「ユ◯クロ来るの久しぶりだなあ。ウーティーとかのコラボ商品は好きなんだけど、そんな服要らないし……」
「ここの商品は部屋着に丁度良いな」
「え? もしかしてディスってんの?」
 店の自動ドアを通過しながら、俺は京一郎の言い草に眉を寄せた。けれども彼はどこ吹く風で「おお、ウリトラライトダウン、たくさんあるぞ」と言って壁面一杯にディスプレイされている商品を指さした。
「今年は結構ビビッドなカラー出てんだよね。去年は落ち着いたのばっかで好みじゃなかった……」
「ほう。毎年チェックしてるのか」
「やっぱカラーにはこだわりたいっしょ! 冬だからこそ明るい色っていうかさ」
「ふふ。お前らしいな」
 京一郎は微笑んでそう言ったから、俺はぽっと頬を染めた。初めから俺にべた惚れしていると言う彼だが、近頃は特に優しい表情をする。
「うーん、オレンジにしよっかなあ。イエローグリーンも捨てがたいけど……」
 ハンガーに掛けてあるダウンの袖を手に取りながらそう言うと、京一郎は「ふむ」と言った。
「お前は金髪だから、イエローグリーンが合うんじゃないか」
「そうだけどさ。完全なプリンなんだよね、今」
 俺はここ数年ずっと金髪にしている。バイトすらしていないニートだから思う存分好きな格好が出来ると満喫していたのだが、この前までの吐きつわりでそれどころではなかった。
「そろそろ美容院に行くか? 肩につきそうになっているな」
「ああ……」
 そう聞かれて、俺は随分伸びた髪を一房手に取った。元元はショートヘアで所謂いわゆるツーブロックにしていたのだけれど、今はただのミディアムボブみたいになっている。ゆるい癖っ毛だから、お洒落パーマをかけたみたいに見えて便利だ。
「京一郎はどこの美容院に行ってるん?」
「ああ、すぐそばの……ほら、なれあい健康館のバス停のそばにあるだろう」
「ああ、あそこか……」
 なれあい健康館とは、母子手帳を交付して貰いに行った市の公共施設である。そういえば、回転場を備えたバス停の向かいのマンションの一階テナントに、昔からお洒落な美容院が入居していたな、と思い出す。
「それにしても京一郎って、めっちゃ髪質良いよな。赤ちゃんに遺伝すると良いな……」
「いや、俺はお前の癖っ毛も好きだぞ」
「よし、イエローグリーンにしよう。また髪脱色するし!」
 俺は照れ隠しに京一郎の言葉を無視すると、商品を手に取ってサイズを確認した……。

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