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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第26話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 十一月の半ば、俺は妊娠十週になった。吐きつわりは最高に酷くなっていて、屡屡しばしばトイレに行くのが間に合わず、床に戻してしまうことがあった。けれども京一郎は嫌な顔一つせず片付けてくれた。
「何が食べられそうだ? フライドポテト?」
 散散吐いて青い顔でソファに横たわっていたら、京一郎が寄って来てそう聞いた。それに弱弱しく頷くと、「では◯ックに行ってくる」と言って上着を羽織った。大手ファーストフードチェーンは、出会った日に二人で行ったス◯バのそばにあり、往復で十五分も掛からない。つわりが酷いのにフライドポテトなんて、と思うかもしれないが、つわりのときに妊婦が口にし易い食べ物トップ10に必ず入っている。
 京一郎は「具合が悪くなったらすぐに電話するんだぞ」と言って出掛けて行った。俺のスマホは寝ていても取れるようにソファの前のガラステーブルの上に置いてある。
 玄関のドアがパタンと閉まり、ガチャガチャ鍵を掛ける音がして、京一郎の足音が遠ざかって行った。すると、飼い主を見送っていたぽん吉がトコトコリビングに戻って来た。それから自分のカドラーに戻るのかと思ったら、ソファのそばまで来たので驚いた。
「ぽん吉……?」
 小さなポメラニアンは、名前を呼ばれると小首を傾げ、くりくりした目で俺をじっと見つめた。珍しく唸られなかったから、恐る恐る手を伸ばしてみた。
「ぽん吉さん……」
 ぽん吉は何も言わずに寄って来て、初めて毛皮を撫でさせてくれたので感動した。出会ってから二ヶ月近く経って、ようやく心を開いてくれたのだろうか。
「ううっ……」
 俺は感極まって泣き始めたが、その途端にウーッと唸ったぽん吉に噛みつかれて、ギャーッと悲鳴を上げた……。

 すぐに帰って来た京一郎にぽん吉に噛まれたと訴えたら、珍しく「ぽん吉さん、あずさは具合が悪いので優しくしてやってくれませんか」と注意した。あくまで低姿勢なので、効果があるかは分からない。
「でもぽん吉、初めてナデナデさせてくれたんだぞ」
 絆創膏ばんそうこうを貼って貰った手をさすりながらそう言ったら、京一郎は少し驚いた顔になった。
「ぽん吉さんが、あずさごときに心を開くなんて……」
「なんかめっちゃ見下されてるし!」
 俺は思い切り突っ込んだが、くらっとしてまたソファに並べたクッションに倒れ込んだ。すると京一郎が慌てて寄って来て、「すまない」と謝る。
「しかし、ぽん吉さんはきっと、あずさを心配していたんだろう」
「噛み付いたのに!?」
 物凄くに落ちなかったが、確かに一瞬だけ心配そうにしていたように見えたから、無理矢理納得した。どちらにせよ、ワンコは可愛い。

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