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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第12話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 京一郎の家を出発すると、バイパスに出て北へ向かい、それから国道との交差点で右折して、県道を東へ走った。それから脇道に入り住宅街を少し行くと、俺の家が見えてくる。ここまで信号待ちを含めて、二十分くらいしか掛からなかった。
「あの白い鉄筋の、四角いのが俺ん家」
「分かった」
 助手席から自宅を指してそう言うと、京一郎は車を徐行させながらこっくり頷いた。古くて小さめの家の並ぶ住宅街の道は、こんな大型車が乗り入れるのには少し狭い。
「じゃあ、送ってくれてありがとな。つっても、アンタが誘拐したんだけど」
「誘拐とは失礼な。結ばれるために安全な場所へ運んだだけだ」
「いや、それすなわち拉致やん」
 無理矢理ではなかったけれど、互いに正気を失っていたのだから微妙なところだ。そんなやりとりをして、俺はふうとため息を吐くと「じゃあな」と言って車から降りた。
 小さな門扉を開けていると、運転席のパワーウインドウが下がって京一郎が顔を出した。
「明日の朝には迎えに来る。ちゃんとご家族に引っ越しのことと、結婚のことを伝えるんだぞ」
「結婚のことって! まあ、運命の番が見つかったことと、引っ越しのことは言っとくわ」
「何かあったら、すぐに電話するんだぞ。二十四時間いつでも駆け付ける」
「なんかア◯ソック(※大手警備会社)みてえだな!」
 京一郎は俺の突っ込みにフフッと笑うと、バックで来た道を戻って行った。初めて乗せられた時も思ったが、なかなか運転が上手だ。

 鍵をガチャガチャ言わせて玄関ドアを開け、奥に向かって「ただいまー」と声を掛ける。すぐに祖母が「アンタ、どこ行ってたん!」と叫ぶのが聞こえた。
「ああ、実は運命の番が見つかって……」
「はあ? 何嘘ついてんだい。ご飯食べた?」
 怒りながらも食事の心配をされて、俺はぷっと噴き出しそうになった。けれども余計に怒られるので、真面目な顔をして答える。
「うん、その運命の番が食べさせてくれた。手作りでめっちゃ美味うめえの……」
「ええ? もしかして、運命の番、本当に見つけたんかい?」
 それから事の経緯いきさつを話すと、祖母は驚いていたが「やったじゃないの」と言った。
「その金持ちのお嬢さんは、美人なんだろ? なんてったって、アルファだもんねえ」
 祖母は勝手に、俺の運命の番は女性アルファだと思ったらしい。学生時代は同級生の可愛い女性ベータに夢中だったのを知っているから当たり前か。
「いや、京一郎は男性アルファなんだ。でも、凄い美形だよ」
「ええ、そうなの……。アンタはそれで良いの?」
「良いも何も、プロポーズまでされたし……。あと、近くの持ちマンションに住まないかって誘われてる」
「良いんじゃない? アンタ、この先どうやって生きてくのかってばーちゃん心配だったから、丁度良いよ」
 そう言われて、随分軽い反応だな、と思ったが、そんなもんか、とも思った。それからふと思い出して相談する。
「それで俺ら、もう子作りしちゃったから、俺、妊娠してるかも……」
「はあ!?」
 そう言ったらようやく祖母は深刻な顔になった。動揺が治まると、頬に手を当て「随分手が早いねえ……」とぼやいた。
「でもまあ、ばーちゃんにはどうこう言えないからねえ。お母さんが帰って来たら相談しな」
「うん……」
 実は、俺の母親は女アルファでこの家の嫁養子だ。もう一人の母親は女オメガで、所謂いわゆる婦婦ふうふだった。その産んだ方の母親は体が弱くて、俺が小さい頃に亡くなってしまった。ちなみに、今話している祖母は亡くなった母親の実母の女ベータで、ちょうど出掛けている祖父も男ベータだ。
 アルファの母親は教師で管理職(教頭)だ。真面目で厳しい性格だから、不出来な息子に頭を悩ませっ放しだったが、この上成り行きで妊娠したかもしれないと聞いたら、卒倒するかもしれない……。

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