【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第97話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
「京一郎きゅん! お寿司の指輪ガチャがある! やろうぜ」
「ダイヤの婚約指輪を嵌めているのに、こんな安物も嵌めるつもりか? 不釣り合いだろう」
そう言われて、俺は左の薬指に光るダイヤの指輪を見た。県内最大級のカプセルトイコーナーの照明の光に照らされて、眩く輝いている。
「そんなこと言ったら、俺本体がこの指輪に不釣り合いだろ!」
「そんなことはない。その指輪はあずさにぴったりだ。俺が選んだからな」
「うっ……でもお寿司の指輪も欲しいもん!」
京一郎はむっとした顔でそう言ったが、嬉しい言葉だったので俺はぽっと頬を染めた。ミナミムラでも『確かにあずさちゃんは可愛い』とか言っていたし、デートなのを意識しているのか、いつもより甘い台詞を吐く。
「ほら! 千円札を寄越せ! 全部百円玉に両替するんだ!」
両替機を指さしながら手を出すと、京一郎ははあ、とため息を吐いて財布を取り出した。それから握らせて貰った千円札を「わーい!」と言いながら機械に差し込んだ。するとすぐにジャララ! と派手な音がして、ぴかぴかの百円玉が十枚出て来た。
「よし、一回三百円だから、三回回せるな!」
「三回も回すのか? ダブったら勿体無いだろう」
「ダブったら誰かにあげる! きっとジンなら喜んで嵌めるだろ」
「否定は出来ないが……しかし、あいつとお揃いのものを嵌めるんじゃないぞ。お揃いが出たら絶対に俺が嵌める」
「ぶはっ! 京一郎がお寿司の指輪……」
長い指にファンシーなおもちゃの指輪が嵌められているところを想像したらシュール極まりなかったので、俺はげらげら笑った。すると再び口を尖らせた彼が「ほら、回すならさっさと回せ」と促した。
「本命は、やっぱマグロのお寿司……次点でおにぎり!」
「おにぎりは寿司じゃないだろう。明らかに外れだな」
「あっでも、たまごのお寿司も良いな! 黄色いのが可愛い……」
「俺の話を聞いていないだろう」
そんな阿呆な会話をしながら、百円玉を三枚投入してハンドルを回した。すぐにガチャッと音がして、白い蓋のカプセルが転がり出て来た。蓋の色で大体中身が分かるが、おそらくマグロでもおにぎりでもたまごでもない。
「あーっ! 鉄火巻きじゃん。これはこれで可愛いけど……」
「鉄火巻きか。中川には相応しい」
「そうだよな! じゃあもう一丁……」
失礼極まりない会話をしながら、もう一度コインを入れてハンドルを回す。すると黒い蓋のカプセルが出て来たので、俺はぱっと目を輝かせた。
「あーっ! 京一郎、念願のおにぎりだぞ!」
「本命はマグロじゃなかったのか?」
「でもおにぎりもめっちゃ可愛いじゃん! わーい!」
「良かったな。二回目で欲しいのが出て」
「よし! 後一回回したら、京一郎のも出ないかな……」
「何を言っているんだ。中川と同じ鉄火巻きが出たら嵌めないからな」
「それはそれで面白いのに……それっ!」
そう言いながらお金を入れ、気合いを入れてハンドルを回すと、また黒い蓋のカプセルが転がり出て来た……。
せっかくの婚約指輪に傷が付いたらいけないので、おにぎりの指輪は左の人差し指に嵌めた。京一郎も同じものを小指に嵌めてピンキーリングにしている——女子高生みたいで可愛い。
「まさかおにぎりがお揃いで出るとはな! 俺達、やっぱ運命のおにぎり夫夫なんだな!」
「運命のおにぎり夫夫……」
京一郎は俺の言い様に微妙な表情をしたが、お揃いの指輪を嵌めているところを写真に撮ると言ったら素直に手を出した。そうして俺がえへへと笑っていると、「今すぐツ◯ッターにアップしろ」と命令したので「やだよ!」と断る。
「せっかくだしプリも撮ろうぜ! 京一郎が盛り加工されたら面白そう……」
「盛り加工って、画像修正のことか」
「そうそう。美肌はもちろんのこと、黒目も大きくしたり、最近のは体型も変えられる」
「あずさを九頭身くらいにしたら面白そうだな。新種のエイリアンの誕生だ」
「何か間違った方向だけど、結構ノリノリだな!!」
そんな阿呆な会話をしながら、広広した空きテナントスペースを活用したプリクラコーナーへ向かった。様様な機種があるがどれが良いか分からないので、とりあえず「激盛れ!」と宣伝文句が踊っているものを選んだ……。
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