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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第131話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 T駅前へは車で十分ちょっとの道程みちのりだから、いつものように無駄話をしているうちに到着した。露出狂をやる前にT駅コレメントプラザで服を買うので、駅前のロータリーをゆっくり走るとぐに立体駐車場のスロープを上った。
「ちょっとだけなら、ゴミ袋被らなくても良くね? 露出狂らしく、直前まで上着を羽織はおっていていざとなったらバッと開く……」
「そこまで再現しなくても良いだろう。近くに交番もあるし、もし通報されたらどうする。しかし、警察官も困惑するだろうな……まさか妊夫の露出狂が現れるとは」
「京一郎きゅんが前科者になったら困るから、バッと脱ぐのは止めといてやるよ!」
「前科者になるのはあずさだけだろう。俺はいざとなったら他人のりをする」
「何だと!? この薄情モンがー!」
 平日だから駐車場はガラ空きで、館内への連絡通路がある二階に駐車することが出来た。京一郎に支えて貰って車を降りながら、阿呆なやりとりをする。
「ヨシ、服買ったら車に戻って着替えて、ぽん吉連れて駅舎の前のアーケードにとつ(※突撃)すんぞ! 分かったか、京一郎きゅん!」
「それより、妖怪卵達磨が着られる服はあるのだろうか……ギャル服屋に」
「それな! ギャルってほっそいからな〜」
 ちなみに、服と擦れて絵が消えたらいけないので、俺は京一郎のTシャツの中でも一等大きいものを着ている。だからメタボ気味のラッパーのような出立いでたちになっているが、いつも通り気にせずに駅ビルに足を踏み入れた。
「ギャル服屋は、ヴェレヴェンとカプセルトイ王国のある四階! でも、今回は時間が無いからカプセルトイを回すのは我慢……」
「あずさにしては自制が効いているな。そんなに露出したいんだな……」
諭吉ゆきちがあんなに沢山出て行ったのに、みんなに見て貰わないなんて勿体もったいいだろ! 京一郎きゅんには大した金額じゃないのは分かるけど……」
 そんな風に話しながらエスカレーターを上り、目当ての店がある四階に到着した。最近、若い女子達の間でへそ出しルックが流行っているから、エスカレーターを降りるなりマネキンが着ているのを見つけた。
「京一郎きゅん! あったぞ、へそ出しルック! あれってチューブトップって言うんか?」
「あれなら、腹巻きと大して変わらないな。前にそこのヴェレヴェンでドラ◯もんの異次元ポケットが付いた腹巻きを見掛けたから、それで良いような気もする」
「駄目だぞ、京一郎きゅん! ガブちゃんの絵を目立たせるには、シンプルな無地のじゃないと……」
成程なるほど
 そんな風にあれこれ相談して選んだのは、シンプルな白の無地のチューブトップだった。胸元とすそにはフリルが付いていて可愛らしい。サイズが合うか心配だったから試着もしたが、多少膨らんだとはいえ女性に比べると胸が小さいからなんく入った。
 そうしてさっさと駐車場のベ◯ツへ戻ると中で着替えを済ませ、ぽん吉も連れ出して一階に下り、いよいよ露出狂大作戦の本番を迎えた……。

「あずさ、そこのス◯バの看板の前でポーズをとれ。何ならプラベチーノを買って手に持っても良い」
「何かめっちゃイ◯スタ映えっぽくて良いな! 投稿したら嫌われそう!」
「嬉しそうに言うな」
 T駅には系列のホテルと駅ビルがくっついているから、施設としては大きいが駅舎自体はとてもこぢんまりしている。小振こぶりな玄関の前には(土鳩どばとけが吊るしてある)アーケードがあり、そこを東へ行くと歩道に面してス◯ーバックスT駅コレメントプラザ店がある。そして、その入り口横の壁面には英字のロゴが取り付けられている——チューブトップを着た俺はハーネスを着けたぽん吉と共にそこまで歩いて行って、大胆にも歩道の真ん中で(『自転車走行禁止』と書いてある置き看板のそば)ポーズをとった。すると、愛用のデジタル一眼レフカメラを構えた京一郎がその前にひざまずいたから、狙い通りみちく人人の注目が集まって俺は得意満面になった。
「ふはは、世界的アーティスト、ガブリエーレ・ファリネッリさんのマタニティペイントでぇす!」
「流石に、大声で宣伝するのは恥ずかしいな……それにしても、流石です! ぽん吉さん。完璧なポージングだ」
 ちらっと見ただけでは誰の絵か分からないだろうから、胸を反らした俺は大声で宣伝した。すると、京一郎は何度もシャッターを切ったけれどほんのり赤くなってそう呟いた(そして、ぽん吉だけ賞賛した)——意外に奥ゆかしくて(?)可愛い。
「動画も撮ってくれ! デルモ歩きして変顔するから!」
「デルモ歩きは分かるが、変顔をするのか? そのままでも変な顔なのに」
「何だとー!?」
 憎まれ口を叩かれて、まなじりを吊り上げて叫んだらパシャッ、パシャッ、と何度もシャッター音がした。そして、ディスプレイを確認した京一郎が「おお、迫力のある絵が撮れた」と呟いているのを聞いて俺はぷりぷりした。
「京一郎きゅん、あからさまな金持ち自慢だけど、注目されるのって楽しいな! 子ども達が大きくなったら、俳優デビューするのも良いかも!」
 そして、今度は京一郎のアドバイス通り(というよりも俺が食べたかったから)、期間限定のプラベチーノシャイニングマスカット味を持ってフレームに収まりながら、俺はそんなことを叫んだ。すると、京一郎が首を傾げて言う。
「俳優デビューか……生憎あいにく、中年のあずさを芸能界にめるようなコネは持っていない」
「コネでむの前提かよ! そうじゃなくて、俳優って言っても、デイケア施設のレクリエーションで劇をやったり、ゆーつーぶに動画をアップしたりするだけでも良いんだぞ!!」
「妙に具体的だが、老後のビジョンがあるのは良いな。何でも好きなことをすれば良い……俺はそばであずさのサポートが出来たらそれで良い」
「おっ、ぽん吉が催してるっぽいぞ! 京一郎きゅん、う◯ち袋を寄越せ!!」
「……」
 京一郎が微笑ほほえんでそう言った時、ぽん吉が歩道の真ん中で踏ん張り始めたので、俺は慌てて叫んだ(けれども本当は嬉しかった)……。

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