【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第37話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
そうしてとっぷり日が暮れて、いよいよ恋人達の聖夜が始まった。
まだ六時前だが外は真っ暗だ。京一郎はリビングを電球色の間接照明に切り替えたから、暖かい光に照らされてムード満点だった。
「よし、スペアリブが完成したぞ。たくさんあるからお代わり出来る」
「おーっ!」
京一郎がそう言い、そわそわと配膳していた俺は歓声を上げた。先程から彼はメインのスペアリブのマーマレード煮を煮詰めていて、甘い匂いが漂っていたので俺の口の中は涎でいっぱいだった。
「スペアリブって豚肉だったんだな! めっちゃ分厚いし最高やん!」
「脂でギトギトだから、あずさにはぴったりだぞ」
「どういう意味だよ!」
いちいち嫌味だな、と思って顔を顰めたが、フライパンの蓋を開けたのを見てにっこりした——甘いソースが絡まった肉汁たっぷりのスペアリブは、とんでもなく美味しそうだ。
「クリスマスが今年はやって来た〜」
「ご機嫌だな。しかしあずさは割と歌が上手いな。俺は音痴だから羨ましい」
「マジで!? 京一郎って何でも得意そうだから意外」
皿にスペアリブを盛り付けながら京一郎がそう言って、俺は目を見開いた。アルファだし、苦手なことなど無いだろうと思っていたからだ。すると、俺の考えを読んだかのように言う。
「子どもの頃から勉強も運動もよく出来たし、見た目も最高だからな。よく苦手なことなど無いだろうと言われるが、そうでもない」
「なんかめっちゃムカつくな! でも、それ聞いて安心したわ。だから今度カラオケ行こうぜ! 近くにあるじゃん」
「ふん、音痴なのを馬鹿にするつもりだな。絶対に行かないぞ」
「えーっ、たまにはマウント取らせてくれよ……」
俺はぶうぶう言いながら食卓に着いた。一足先に(犬用に殆ど味付けしていない、ローカロリーの)クリスマスディナーを食べたぽん吉は、ヒーターのそばでへそ天で寝ている。ぽっこりしたピンク色のお腹が可愛い。
「それでは食べようか。乾杯はワインの代わりにフォンタグレープだな」
「おう!」
妊婦の俺は当然アルコールが飲めないから、ディナーのお供として子どもに大人気の炭酸飲料をリクエストしていた——京一郎は飲めるのに、付き合ってくれたから嬉しかった。
ジュースをワイングラスに注ぎ、それぞれ手にしてチン、と軽い音を立てて合わせた。それから「メリークリスマス!」と祝う。
「うへへ、肉肉、肉じゃー! 肉を食うぞー!」
「流石あずさ、山賊みがあるな」
阿呆な会話をしながらまだ熱熱のスペアリブにガブっと齧り付いたら、予想通り甘くてとんでもなくジューシーだった。思わず無言でパクパク食べていたら、京一郎がふふっと笑って言う。
「気に入ったようだな。また時時作ってやろう」
「うん! メシウマ京一郎さん、期待してますぞ!」
俺はにっこり笑ってそう言い、微笑んでいる京一郎と見つめ合うと、山賊のように肉をフォークに刺したまま「幸せじゃー!」と叫んだ……。
次のお話はこちら↓
前のお話はこちら↓
いつもご支援本当にありがとうございます。お陰様で書き続けられます。