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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第32話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 十二月のど真ん中で週のど真ん中の水曜日、俺は朝からトイレに籠もっていた。ちなみにすっかり体調が良くなったので、京一郎とぽん吉と共に別荘(※マンションの部屋)に滞在している。
「あずさ? 大丈夫か? まさか気を失っているんじゃないだろうな……」
 便座に座りうんうん唸っていたら、ドアの向こうで京一郎がそう言うのが聞こえ、すぐにガチャガチャノブを回されたから「やめろよ!」と叫ぶ。それから続けて「う◯こが出ねえ!」と窮状きゅうじょうを訴えたら、冷静に「ふむ」と言うのが聞こえた。
 つわりが治まって喜んだのも束の間で、数日前から全くお通じが無かった。俺は生まれてこの方快食快便だったから、気持ちが悪くて何度もトライしたのだけれど、腹の中のう◯こは予想以上に頑固な引き籠もりだった。
「まあ、一度諦めて朝食を食べたらどうだ。気張り過ぎると尻の穴が切れるぞ」
「ヒェッ」
 京一郎の言葉に突然尻の穴が心配になって、俺は立ち上がるとさっさと尻を拭いて撤収することにした。

「京一郎ってう◯こよく出る方なん?」
「……」
 白米を山盛りに装いながらそう聞いたら、ガスコンロの前に立って味噌汁を椀に装っていた京一郎が黙って俺をジッと見た。それに「何だよ」と尋ねる。
「お前は俺のことを身も蓋もない、とよく言うが、お前も大概だぞ」
「え? 別に良いじゃん。京一郎は俺の穴という穴を舐め尽くしてるんだし、う◯こなんて今更だろ?」
「言い方が下品過ぎる!」
 京一郎は憤然とそう言うと、味噌汁を装う作業を再開した。けれども真面目に「生まれてからずっと快便だ」と答えたからぷっと噴き出す。
「俺もそうだったんだよ。気持ち良くブリブリ出てたのに」
「……」
「あーあ。妊夫って予想以上に大変だわ」
 そうぼやいてから、「このまま死ぬまで糞詰ふんづまりだったらどうしよう……」と呟いたら、京一郎が「言い方!」と小さく叫んで注意した。
「まあしかし、そんなに大変なのによく頑張っているな。今日も巻かないだし巻き卵を自分で作ったし」
「だろ!?」
 朝食のメインを作ったのは俺だ。「巻かないだし巻き卵」とはその名の通り、フライパンに油を引いて卵と白だし、好みの調味料を混ぜたものを注いで焼くオムレツのような料理だ。成形する手間が無いのに、簡単にプロの味を再現出来る神レシピである。
「さあさあ食べましょうぞ、京一郎さん!」
「う◯こが出なかった割には元気だな」
「だって悩んでも仕方ないじゃん? 案ずるよりう◯こするが易しって言うし!」
「……色色間違っているが、食事中だからこれ以上う◯こと言うなよ……」
 京一郎はそう釘を刺すと、きちんと手を合わせて「いただきます」と言った……。

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