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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第56話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「げっ! 中吉だ……何か微妙」
「ふふふ……」
 目当てのおみくじを引いて、いそいそと開けたら中吉だった。大吉が良かった、と口を尖らせていたら、京一郎が不敵な笑いを浮かべたのでまさか、と目を見開く。
「あーっ! 大吉! 何てこったい!」
「何てこったい……」
 俺の台詞に京一郎は呆れ顔になったが、すぐにふふん、と言って鼻高高になった。
「あずさとは違って、俺は日頃の行いが良いからな。盗み食いをしたりしない」
「盗み食い!? そんな、二、三回京一郎の置いてあった高級クッキー食い尽くしただけじゃねーか」
「二、三回も食い尽くしておいて盗人ぬすびと猛猛たけだけしいな」
 京一郎は再び呆れたが、「ちょっと見せてみろ」と言って俺のおみくじを取った。それから難しい顔をして見ているので、「何だ?」と尋ねる。
「『出産 親の身大切にせよ 安産』か……」
「えっ」
 まさか京一郎がおみくじの文言を気にしているとは思わなかったから、俺は目を見開いた。すると彼は俺を見て言う。
「安産で良かったな。お母さんを大切にするんだぞ」
「ええ〜」
「ええ〜とは何だ。最近連絡しているのか?」
「ああ、ちょこちょこな。赤ちゃんの様子とかは知らせてる」
「そうか」
 そう応えると、京一郎はおみくじをきれいに折り畳みはじめたので、「待てよ! 俺にも見せろ」と言って奪い取った。
「ふむふむ。京一郎の出産は『安堵すべし』か。良いじゃん」
「俺のは関係あるのか?」
「多分関係無いんじゃね?」
 俺の答えに、京一郎ははあ、とため息を吐くと「返せ」と言って手を出した。けれども返さないで続きを読む。
「『待ち人 来る喜びあり』……これってもしかして」
「ああ。俺も赤ん坊のことじゃないかと思った」
「そっか……」
 俺はようやくおみくじを返しながら、ぽっと頬を染めた。京一郎は赤ちゃんを待っているのだな、と思うと嬉しかった……。

 それから俺達は屋台で買い食いした。無事に箸巻きを手に入れ、「ウヒョー」と叫びながら頬張る。もう片方の手にはベビーカステラの袋を持っていてうっかり落としそうになったら、京一郎が寸前でキャッチしたので「ナイス!」と声を掛けた。
「何でそんなに強欲なんだ。食欲が服を着て歩いているようだ」
「おっ? 俺が食欲なら、お腹の赤ちゃんは何だ? ミニ食欲か?」
「ミニ食欲……」
「よし、それなら赤ちゃんの名前には食の字を入れよう。『食い倒れ太郎』をもじって『食太郎くいたろう』とかどうよ? 女の子なら美味しいを捩って『美味子うまこ』」
「最悪なのに独創的なネーミングセンスだな……」
 京一郎は呆れ半分感心半分といった表情でそう言ったので、俺はぎゃははと笑った……。

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